前エントリー で紹介した,D5のスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの共演に引き続き,D8のスティーブ・ジョブズのビデオを観た.こちらは今年の6月と割と最近の内容で,ジョブズの単独インタビューである.
Apple CEO Steve Jobs Live at D8
Steve Jobs at the D8 Conference (Podcast)
D5におけるゲイツとの共演では友好的な一面を見せていたが,こちらでは非常にトンがった,いつもの「ジョブズ節」を披露している.良い意味で大人気なく,自分の主張をまくしたてるのだ.
例えば「Flash に対応しないことは,ユーザーにとってフェアなのか?」という質問に対して,
・(全てのことはできないので) 注意深くやることを見極めている
・Flash は廃れていくだろう
・これからは HTML5 だ
…といった理屈を述べた後,
(アドビに対して) Flash を速くできたら俺のところに持ってこいと伝えたけど,その後来ちゃいないよ.
(ブラウザが Flash 非対応の為に穴が空いている個所は) どーせ広告だろ?
と吐き捨て,「(Google の Android について) 裏切られたと思うか?」という質問に対しては,
My sex life is pretty good.
How is yours?
という回答.もうやりたい放題である.
他にも「Apple は検索はやらない」と明言したり,iPhone よりも先にタブレット (iPad) を開発していたと告白したり,iPhone4 流出事件や Foxconn での従業員自殺に対して見解を示すなど,内容は多岐に渡る.その中で個人的に興味深かった点を以下に挙げておく.
【プラットフォーム戦争】
「これまでは OS がプラットフォームだったが,Android はプラットフォームだし,ブラウザもプラットフォームと言える.ソーシャルグラフの観点では Facebook だってプラットフォームだ.それについてどう思う?」という質問に対して
そんな風には思っていない.
マイクロソフトとも (かつて) プラットフォーム戦争をしたとは思っていない.
(ジョブズの回答よりもインタビュアーの質問が鋭かった)
【コンシューマー・マーケット】
コンシューマー・マーケットはコンシューマーが yes か no かを告げる.
非常にシンプルで素晴らしい.
エンタープライズ・マーケットではそうはいかない.
【出版業界】
新聞は非常に大切だ.
既存の出版メディアに対しては,どんな協力でもする.
(個人的には意外な発言)
【タブレットはノート PC を置き換えるか】
農業が中心だった頃は,「車」と言えば「トラック」だった.
現代でもトラックは走っているが,一部の人が特定の目的に使っている.
PC も,つまりトラックだ.
今はみんな使っているが,いずれは一部の人が特定の目的に使うようになるだろう.
【Apple の経営】
Apple には「コミッティー」というものがない.
地球上で一番大きなベンチャーのようなものだ.
権力や役職ではなく,アイデアで勝負しなければいけない,
ベストアイデアが常に勝つようにしている.
【次の10年】
考えられる最悪の事態は,我々が自分たちの価値観を曲げてしまうことだ.
そんなことをするぐらいなら辞める.
信じるものは昔から変わらないし,これからも変わらない.
【テレビ】
テレビ産業は,(STB を無料で配るなどして) 契約で儲けるモデルになっていて,参入しにくい.
新しい参入策が無い限り,やるつもりはない.
(ジョブズは「やらない」と言ったことを過去やり続けてきているので,テレビもやるのかも?)
とにかく,ブレない.揺るがない.
そして根底にあるのが「ベストな製品を作ること」というのが一番印象的だった.自らの主張を正当化している根拠が,常にそれなのだ.
幾度となく「ベストな製品を作ること」と繰り返していたが,それを言う時は,こんな調子でいつも力がこもっていた (下のビデオの2分45秒あたりから.そのポイントからリンクしています).
Because we wanna make the best product in the world for customers
-- Steve Jobs