Marc Ford 4年振りのソロアルバム.彼には思い入れがとても強くて,なかなかレビューが書けずにいた.
というわけで,以下長くなります.適当にスルーして下さい.
Marc Ford は,かつて私が10代の頃に,ファッションまで含めて影響を受けたギターヒーローだった.まさに私にとってのファッションリーダーであり,アイドルだったわけで,Keith Richards や Steve Cropper,Jesse Davis の音も大好きだが,なによりリアルタイムで聴いた「Marc の音」が1つの基準になってしまっている.
「カッコいい」の定義が Marc 自身なのだから,本人のアルバムを聴いてカッコいいと思うのは,まあ当たり前なわけで (最近の写真を見ると,なぎら健壱と山本晋也を足して2で割ったような風貌になっていたことについては,とても複雑だが…)
なんでこんなに Marc Ford が好きなのか改めて考えてみると,ギタリストとしてのセンスとかカッコよさはもちろんあるのだが,すごく「雰囲気」が出せるミュージシャンだからなのかな,と.空気を作り出してしまう色気があるのだ.
今思えば彼は,90年代という時代に,60年代の先人達の「カッコよさ」を,その時代なりに,そして Marc の色をつけて完璧に表現していたんだと思う.例えば,私がリアルタイムで聴く頃のクラプトンは「英国風紳士」みたいになってしまっていたが,ギブソンを持っていた頃のとんがったクラプトンが,確かに Marc には受け継がれていた (本人曰く彼のヒーローは Jeff Beck だったらしいが).
で,何が言いたいかというと,今の Marc は昔の Marc とは違って (って15年も経てばあたり前だが),同じところに留まっているわけでもなく,多くのミュージシャンのように残念な方向に向かっているわけでもない.まさにリアルタイムに,自分が成長していく過程で,そのカッコよさを失わないミュージシャンの変わり様を,まだこの歳になって体験できることが,なんとも幸せなのだ.これって1975年生まれ,+/- 1・2年ぐらいの世代の,サザンロックにハマって Marc Ford にシビれちゃった,というすごく狭い範囲の人種にしか分からないかもしれないが,自分がその1人で本当によかった.
ただ,主観的にはそうなのだが,客観的にはその世代ごとに,私にとっての Marc みたいな役割の人がそれぞれいるだろうし,そういう人に対して appreciate & respect することが,またそれぞれの世代で,素晴らしいことなんだろうね.
ということでこのアルバムについてだが,ここまで彼に対する想いを書いた後に「最高にカッコいい」とか書いても説得力が無いだろうが,なんせめちゃくちゃ最高にカッコいい.展開がいちいちカッコいいのだ.ミュージシャンとして,すごくノッている時期なんだと思う.激しく攻めていて,同時にどこまでも優しい.
前作はモロにテレキャスの音がしていたが,今回はまた太めの音になっている.といっても昔の P90 レスポールというより,なんだろ,レスポール Jr. あたり使ってるのかな? 音が言葉で表現できたらどれだけいいかと思うが,ハム系の,溜めて出したような,丸みをおびつつ,つんざくような,まさにこのアルバムで聴ける「この音」が,なんとも心地良く体に響く.とにかくギターが歌いまくりなのだ.どの曲も,始まり方と,特に終わり方が非常に Marc っぽい.
何度か聴き返してみると,これだけのアルバムで,ものすごくシンプルなリフの曲をあえて1曲目に持ってきているところに,強いメッセージを感じる.「あーただいま.今帰ったよ」みたいな.
3曲目まで息をつく間もない Marc 節.コーラスが入るタイミングとかも自分で考えてるのかな? そして Dirty Girl のなんとも言えない心地良さ.さらに The Other Side のボーカル.Marc の歌声って,決して歌唱力があるわけではないのだが,愛着がわくというか,また聴きたくなるというか,んー上手い表現ないかな.
1000 Ways は100点満点.これ Cream だわ.ギターソロとか,なんの策略もなしに,自然とこういうフレーズが頭に思い浮かぶのは,うらやましいを通りこしてなんかムカツクな.
Greazy Chicken のネットリ感,なんともいやらしい.ワウ5段.
Just Take The Money ってそんなに繰り返されたら,もうたまらない.Running Man Blues でもうそんなことされたら,あーーー!!! えーそれで Bye Bye Suzy の展開ですか.あーーー!!!
「バイバーイ スージーバイバーイ バイバイバーイ」これ,絶対頭に残る.ギターもキレまくり.
Same Thing のカバーにハッとする.どう考えても Muddy のバージョンにかないっこないのに,そして特にボーカルはやっぱりハッキリ聴き劣りするのに,「だってやりたかったんだもーん」と言わんばかりに演っている.ブルースっぽくしようとか,カッコつけようとか,そういうのは一切感じられない.なにも気にしない,ノビノビとした,とても自由な.あくまでも,Marc Ford の,Marc Ford 以外のなにものでもない Same Thing.聴いているとニタニタ笑いが込みあげてくる.んー Marc かわゆい.
…あ,すみません,一部取り乱してます.
このアルバムを聴いて改めて思ったが,Burning Tree からの流れを考えると,むしろ Black Crowes に在籍していた時の Marc の方が異質だったのかもしれない.3ピースの Burning Tree で,ギター・ボーカル・作詞・作曲をしていたバリバリのフロントマンから,リズムギターの方が目立つバンドのリードギタリスト,と.特に song writing を譲ったのは大きかったんじゃないかな.やっぱり「ギタリスト」としてだけではなく,「シンガーソングライター」でありたかったと思うのだ.
それで,Black Crowes 在籍時後期の,Rich になかなか譲らない,若干弾き過ぎ気味の Marc や,Foam Foot で壊れたように弾きまくる Marc がいて,前作のレイドバックした Marc を経て,このアルバム…と考えると,17年のプロミュージシャン人生で,やっと自分がやりたかったことが表現できたのかも…というのは聴き手の勝手なイメージだが,まあ勝手なイメージ持ったってええじゃないか.
…さて,冒頭に,「『カッコいい』の定義が Marc 自身なんだから,本人のアルバムを聴いてカッコいいと思うのは当たり前」と書いた.
いやいや,本当は違うのである.
10代の頃の私は,誰より Marc Ford になりたかった.その Marc にシビれていた少年が30を越え,40になった Marc のニューアルバムを聴いて,「あー,マークっぽいねー」と言えるのが,最高ではないか.
Amorica の頃の Marc Ford が全盛期だと思ってたって?
とんでもない!
2007年の今こそが,彼のプライムタイムだ!
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