最後の授業 - ランディ・パウシュ [book]
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アメリカの大学では,"The Last Lecture (最後の授業)" と呼ばれるイベントが行われることがある.教授は,「もしこれが自分にとって最後の授業だったら生徒に何を伝えるか」という設定で講義を行うのだ.
カーネギーメロン大学の教授だったランディ・パウシュが行ったこの「最後の授業」は,他のそれらとは事情が異なっていた.パウシュは末期癌を宣告され,文字通りこれは彼にとっての「最後の授業」だったのである.
本書は,当日の講義を収録した DVD と,その「つづき」という位置付けで書かれた書籍から構成されている.DVD 無し版もあるが,ぜひ DVD 付き版を購入し,まず DVD を観てから本を読んで頂きたい.
余命数ヶ月の中,彼が全身全霊をかけて語ったのは,間違いなく「死ぬこと」ではなく「生きること」だった.
決して,お涙頂戴の内容ではない.悲痛など微塵もない.それどころか,とてつもなくポジティブなエネルギーに満ちている.
実際彼は講義の冒頭で,「この講堂の中で一番元気なのは自分である」と腕立て伏せをやって見せた後に,「今のができない人は僕を憐れまないように」と言ってのける.なんとも痛快ではないか.
…そして彼は「最後の授業」を,ある1つの告白で締め括る.
This talk wasn't for you guys.
It was for Dylan, Logan, and Chloe.
そう,これは講堂にいるオーディエンスに向けてではなく,まだ幼い3人の我が子に遺したメッセージなのである.彼が「最後の授業」として選んだ題材は,決して彼の研究の集大成などではなく,「子供のころからの夢を本当に実現するために」というものだった.本来何十年もかけて子供に伝えていくべきことを,77分間の授業として記録したのだ.
彼は超名門大学の教授であり,コンピューターサイエンスの権威である.そして映像を観れば,彼が卓越したプレゼンテーション技術とユーモアのセンスに裏打ちされた,一流のエンターテイナーであることにも気付くだろう.だが彼は本質的には,単純にフットボールとディズニーが大好きで,なにより家族のことを心から大切にしている,愛に溢れた1人の父親だった.
そして個人的には,私も娘を持つ父親として,彼が愛娘に遺したこんな言葉に共感せずにはいられない.
彼女にはじめて恋した男性が僕だったことを感じながら、成長してほしい
親ならだれでも、自分の子供に善意の分別を教え、自分が大切だと思うことを伝え、人生で訪れる問題にどのように立ち向かうかを教えてやりたい。自分が人生で学んだことを話して、子供が人生を歩む道しるべのひとつにしてほしい。
--中略--
僕が画家だったら、子供たちのために絵を描くだろう。ミュージシャンだったら曲をつくる。でも僕は教師だ。だから講義をした。
--中略--
はじめからわかっている。この「講義」のどれも、生きている親のかわりになどならない。でも、大切なのは完璧な答えではない - 限られたなかで最善の努力をすることだ。最後の講義でもこの本でも、僕はそのとおり努力した。
-- 最後の授業 / ランディ・パウシュ