2023年3月26日日曜日

お金の知識 - 子供を自殺させないために,子供を犯罪者にしないために [memo]

先進国 (G7) の中で,日本の自殺死亡率はぶっちぎりのトップです.また同じく G7 の中で,日本は若者 (15-39歳) の死因の第1位が自殺である,唯一の国です.

なんでこんなことになっているんですか?
これが,僕らが子供を育てたい国ですか?

日本人が自殺をする理由の第2位,罪を犯す理由の第1位が,お金 (経済・生活問題) です.



日本人の預貯金率は54.2%.即ち,現金・預金が資産の半分以上を占めています (アメリカ人の預貯金率はわずか13.7%で,逆に株式・投資信託・債券といった金融商品が資産の半分以上を占めています).日本では貯金が美徳とされていますが,まずはっきりさせておきたいことは,「貯金とは,お金が減る行為」だということです.

日本で多くの人がお金に対してやる行為は,消費・浪費・貯金ですが,これらは全てお金が減る行為です (もちろん,これらを否定はしていません.浪費ですら,本当に欲しいものを買ったり,たまに贅沢をすることは,人生において不可欠です).

日本銀行は,2%の物価上昇 (インフレ) を目指しています.今年1月の日本の消費者物価指数前年同月比 (≒ 物価上昇率) は,それを越える4.3%でした.2022年,スシローからうまい棒まで,企業が続々と「創業以来初」「発売以来初」の値上げをしたのは記憶に新しく,実際に生活の中でもモノの値段が上がっている肌感覚はありますよね.さらにその前から,価格は変わらないけど中身が少しずつ減っている「ステルス値上げ」は行われてきました.

急速に進んだ歴史的な円安も,価格上昇に拍車をかけています.「日本に住んでいるから円安なんか関係ない」と思うかもしれません.ですが日本はエネルギーや食糧の海外依存度が高い国なので,円安は物流価格や資源価格にマイナスに働きます.例えば新しいモデルが発売される度に高くなっている iPhone,アメリカでは価格が変わっていないことをご存知でしたか?

もうお分かりかと思いますが,なぜ貯金はお金が減る行為なのか.それは,貯金とは,数字の保存であり,価値の保存ではないからです.

日銀が毎年2%ずつの物価上昇を目指すなら (繰り返しますが現状はこれを越えています),資産も毎年2%以上増えない限り,価値が減っていきます.去年100円だったものが今年は102円になるとして,普通預金の金利が0.001%の日本の銀行に置いてあった去年の100円は,今年も100円のままなのです.


消費・浪費・貯金に加えて,お金は投資する必要があるんです.

仮に文字通り「億万長者」になろうと,1億円貯めることを考えた場合,社会に出てから定年間際までの40年間,毎月10万円貯めたとすると (この条件が既に厳しいし,新卒の稼げない時や子供が生まれた時などを考えると,非現実的です),40年後には4800万になりますよね.つまり半分にもならない.S&P500の過去20年平均リターンは約10%ですが,さらに無難に6%で見積もり,毎月この半分の5万円を投資すると,40年後にちょうど1億円になります.準富裕層と呼ばれる資産5千万,あるいは一時期話題になった「老後2千万円問題」の解決なら,ものすごく現実的になると思いませんか?


世界10%のお金持ちが,世界の90%のお金を持っていると言われます.10%に入るには (少なくともお金で苦労しない為には),お金の知識が必要です.僕は,大金持ちにならなくてもいいけど,お金の心配はしたくないし,お金のためにアクセク働くのはイヤだし,お金のためにやりたいことや行動範囲が制限されるのもイヤです.若者をそんな大人にもしたくない.

この国では,かつて農民が一揆を起こさないように儒教を捻じ曲げて取り入れ (意味不明の上下関係や年功序列,ワケのわからない同調圧力),黙って年貢をおさめる従順な農民を持ち上げてお金の知識を持つ商人を最下層に位置づけた「士農工商」の名残りが,今もあります.だから,毎日使う国語や算数は学校で教えても,同じく毎日使うお金の仕組みは学校で教えない.親が教えるしかないんです.

日本の累進課税は,5%->10%->20%->23%->33%…と上がりますが,なぜ20%->23%のところだけ中途半端に上がっているか考えたことはありますか? iDeCo や NISA といった制度がはじまったのは,「もう年金ムリゲーで国は助けられないから,仕組みだけ用意しといたんで後は自分で頑張って!」という国からのメッセージに聞こえませんか?

国を動かしている権力者にとって,国民はバカな方が都合がいいと言われます.とあるドラマのワンシーンですが,これは仕組みを作っている側の人間の,実際の本音なのかもしれません.





「母が無知なら子供は病気になり,父が無知なら子供は貧乏になる」という言葉があります.「金融投資なんか興味がない」と言うのは勝手ですが,自分が勉強しないことで子供の未来を窮屈にしている,極端に言えば,子供の自殺率と犯罪率を上げているという,自覚を持ったらどうだろう.ボーっと生きてんじゃねーよ.


とっかかりとして,何冊か本を紹介します.どれも魚を与えるのではなく,釣り方を説く,素晴らしい本です.


【なぜ投資のプロはサルに負けるのか? -- 藤沢 数希】



もう16年以上も前の本ですが,ファイナンスの要点が学べる1冊です.また著者の結論が,「投資なんかしなくていい」という,僕と真逆のものなので,1つの意見だけを聞かずにバランスをとるという観点からもお勧めします.


【臆病者のための億万長者入門 -- 橘 玲】



先の「なぜ投資のプロはサルに負けるのか?」と重複する部分もありますが,投資の考え方が体系的にまとまった1冊です.


【超簡単 お金の運用術 -- 山崎 元】



シンプルな投資をはじめるのに,参考になる1冊です.これも古い本なので,読み終えてから「今の時代ならどうアップデートするかな」と考えてみるのもいいと思います (かつ,今でも,このまま取り入れても間違いは起こらない良書です).

よく似た内容で,この山崎 元氏と,水背 ケンイチ氏の共著による,ほったらかし投資術 が,2022年に第3版として改訂されているので,最新情報としてこちらを合わせて読むのもオススメです.




【苦しかったときの話をしようか -- 森岡 毅】



お金の知識に関する本ではありませんが,資本主義の仕組みについて触れている箇所があり,その数ページだけでも読む価値があります.また,本書が主題とするキャリア形成という点においては,若い方はもとより,全ての社会人が読むべき1冊です.実際に本書は,著者の森岡 毅氏がご息女に書きためたメッセージを書籍化したものであり,子供に伝えたい,お金と同じくらい大切な生きるためのツールを,紐解いています.



若い方には,お金を金融投資にまわすより,その何倍もリターンが高い自己投資に費やすようにアドバイスしています.若いうちは,バイト代や給料は,勉強や体験に使うのがいい.ただそのうち少しだけ,月に1回飲みに行くのをやめる程度の金額でもいいから,金融投資はするようにとつけ加えて.

タネ銭が少なければ,お金を増やすという意味では効果は低いかもしれませんが,お金のリテラシーを身につけ,経済のアンテナを立てる手段としては,実践が一番です.僕は自分の子供に,暦年贈与の範囲で,「毎年○○万円あげるから,好きな銘柄に投資しなさい.大人になった時,全部自分のものとして好きに使っていい.但しそれが増えていても減っていても自分の責任.学費以外で足りない分は一切援助しないから,自分のお金として運用すること」と伝えています.

「投資は怖い」と言う人がいますが,投資をしないということは,今の収入源 (例えば今働いている会社) と日本円に,一極集中投資をしているということです.そちらの方がよっぽど怖い.つまり投資とは,やるかやらないかという話ではなく,どのようにやるかという話です.


日本の経済・景気・平均賃金は過去30年に渡り低迷を続け,日本のビッグマック指数は先進国で最下位となり,日本企業の管理職の年収はタイに抜かれました.東南アジアの方々が日本に稼ぎに来ていた時代がありましたが,この貧しくなっていく日本において,近い将来コンビニのレジに立っているのは,彼らではなく,定年後もお金に苦労している日本人の老人かもしれません.

そんな国に生まれた僕の子供が,人生を賭けてやりたいことを見つけた時に,お金が理由でそれを諦めなくてもいいように,これからもがむしゃらに勉強して,両足で立つ為の知恵を伝えていく所存です.

自分の子供に自分が大切だと思うことを伝え,人生で訪れる問題にどのように立ち向かうかを教えてやりたい.自分が人生で学んだことを話して,子供が人生を歩む道しるべのひとつにしてほしい.

-- ランディ・パウシュ


2023年1月8日日曜日

リスクを取らない人が,なぜ「機会損失」という最大のリスクを意識しないのか不思議 - DIE WITH ZERO [book]



「給料ゼロでタダ働きしてくれ」
そう言われたら,まっぴらごめんだと思うかもしれませんが,あなたはそれをやっている可能性が高い.

「子供にお金を残してあげたい…」
それは同じ忙しい毎日を送る,言い訳でしょ? あなたの子供は,残してくれるお金が少し減っても,父ちゃん (母ちゃん) と一緒に過ごす時間が増えた方が嬉しいかもよ? 小さい頃に,忘れられないような旅行でも家族でする方が,将来の財産になるかもよ?


お金を稼ぐ・増やすという内容を説く書籍が多い昨今,「人生が豊かになりすぎる究極のルール」という副題を持つ本書は,お金の使い方を紐解きます.個人的には,人間のセンスと品格が問われるのは,お金の稼ぎ方や増やし方より,使い方だと思っています.


架空の45歳の独身女性,エリザベスを例にする.

年収は600万円,所得税や社会保険料などを差し引いた可処分所得は489万円.週平均50時間働く彼女の正味の時給は1956円だ.30代前半に購入したマイホームの住宅ローンは完済し,この家は売れば4500万円になる.昨年は例年並みの329万円を使った (160万円を貯蓄できた).

この条件で計算すると,エリザベスは65歳で定年退職した場合,退職時の資産は約7700万円.退職後の生活費を年間320万円 (実際には高齢になるほど少なくなる) と仮定すると彼女は24年弱生活できる.だがエリザベスが85歳のときに亡くなったとすると,1300万円の資産を使わないことになる.

このとき,エリザベスは約1300万円分の経験を逃してしまったことになる.それ自体が残念なことだが,それだけではない.そう,エリザベスは生きているうちに使い切れない金を稼ぐために,2年半タダ働きしたのと同じだ.人生の貴重な時間とエネルギーを,もっと他のことに使えたかもしれないのに.

だからエリザベスの例より収入が高い人にとっても,低い人にとっても,私からのメッセージは同じだ.生きているうちに金を使い切ること,つまり「ゼロで死ぬ」を目指してほしい.そうしないと,人生の限りある時間とエネルギーを無駄にしてしまう.


これは,「お金を残して死ぬことは,タダ働きをしたことになるだけでなく,できていたはずの体験を逃した」ということを,非常に論理的に説明した,本書で紹介されているエピソード (を簡略化したもの) です.

金融投資をされている方は,「配当」や「複利」がいかに強力かをご存知でしょう.時間と体験に対する投資にも,同等の法則が成り立ちます.例えば若い頃にバックパックで外国を訪れた旅は,それを思い出す度にニヤニヤし,その後の人生の糧になるでしょう.

著者の,"Each version of you dies everyday" という言葉が,心に響いています.私の娘は今年で20歳になりますが,彼女が幼い頃,一緒に子供向けの映画を観に行ったような体験は,もうできないのです.つまり,「娘と子供向けの映画を一緒に観た私」は,既に死んでいるのです.

「お金」を「意味のある体験」に変換する能力は,年齢を重ねるごとに弱体化していきます.90歳から水上スキーをはじめることはできません.体験は,早くすればするほど,残りの人生を豊かにします.「今日のバージョンの自分は毎日死んでいく」という考えを胸に,お金を意味のある体験に変換していこうと思います.


さて資産はいつ取り崩しはじめるべきなのか.著者は,それは45歳から60歳の間,と主張します.具体的な説明や試算方法は本書に譲りますが,ここで忘れてはならないことがあります.

資産のピークがいつかを決めるのは,数字ではなく,健康状態 (生物学的年齢) である,ということです.即ち,健康であればあるほど,実質的な金持ちである,ということです.

どんなにお金があっても,健康を買うことはできません.健康でなければ,どんなにお金があっても,それを最大化することはできません.理論上,「お金」は増やすことができる資産ですが,「時間」や「健康」は増やすことができない資産…ということを考えれば,どちらが価値が高いかは自明です.


死後にもらうと,うれしさ半減,価値は激減

冒頭の発言で誤解を招くといけないので補足しておきますが,著者は,「子供にお金を残さず,生きているうちに全部使ってしまおう」と言っているわけではありません.あくまで子供に与えるべきお金を取り分けた後の,残りを生きているうちに使い切るべきだと主張しています.但し,「あなたが85歳,子供が60歳」の時に相続するのではなく,子供が若いうち,具体的には子供が26歳から35歳の間に,お金を渡すのが最善と説いています.私としては,子供には体験や教育には惜しみなくお金を使い,残すお金はゼロで良いと考えています.


お金の心配があるかもしれません.でも,ゴキゲンな人生を送れない心配にも,真摯に向き合うべきではないでしょうか.同じ毎日の自動運転モードから抜け出し,一度きりの人生で本当に何がしたいのかを考えてみるべきです.

いつかお金がたまったら…?
いつか時間ができたら…?
いつかリタイアしたら…?
いや,物事を決めるタイミングには,「たった今」か「永久に後」の2つしかないのです.

死ぬ時に思い出すのは,大好きな人と一緒に過ごした思い出であり,銀行残高ではないはずです.人生の価値とは,お金ではなく,お金を使って得られる体験価値なのです.

今それをしないリスクを考えてみよう.一緒に経験したい誰かの顔を思い浮かべてみよう.先延ばしにせず,今その経験をすることで,どれだけこの先の人生で「思い出の配当」が得られるかを想像してみよう.


「45歳から60歳」が資産を取り崩しはじめるゴールデン・エイジなのであれば,今年48歳になる自分に向けて,そして同世代の仲間に向けて,心をこめて書いてみました.