圧縮された音楽は感情に訴えない? [music]
おもしろい記事を見つけた.
Producers howl over sound cut out by MP3 compression
この記事は,iPod などの MP3 プレイヤーが再生する音楽が,いかにオリジナルからほど遠いものかを説いている.
MP3 がこれだけ普及した (してしまった) のは,決してサウンド面のクオリティからではなく,(圧縮率が優れているなどの) 技術面によるものである.そもそも CD がスタジオでレコーディングされた音の半分以下の情報しか持っていないのに,MP3 などの圧縮フォーマットはその CD の10%以下の情報量であり,まさに「オリジナル音楽の極めて小さな切れっぱし」にしか過ぎないとのこと.
Phil Ramone (数々の有名ミュージシャンを手がけたプロデューサー) の,「人間というのは『最低 (のクオリティ)』に慣れてしまうものだ.ファストフードがそれを証明している」という発言も非常に興味深い.
しかしこの記事の中で,特に目をひいたのが,カリフォルニア大学の聴覚学長である Robert Sweetow 博士のこの発言.
Poorer-fidelity music stimulates the brain in different ways,
With different neurons, perhaps lesser neurons, stimulated, there are fewer cortical neurons connected back to the limbic system, where the emotions are stored.
低音質の音楽は脳に対する作用の仕方がそもそも違い,別の神経細胞が刺激され,脳内で感情が格納されている辺縁系という部分と繋がる皮質細胞も少なくなると言うのだ.
平たく言うと,脳科学的には「同じ曲を MP3 で聴くと,CD で聴くよりも感動が少ない」ということになる.
かくいう私もここ最近 iTunes/iPod で音楽を聴くことが多くなっているが,この記事を読んで久しぶりにレコードを聴いてみた.取り出したのは,私の中の「アナログで聴くべきアルバム No.1」である The Band の Music from Big Pink.
あれ? Tears of Rage のタンバリンって,これほど怒りに満ちていて,耳をつんざくほど大きな音だっけ?
あれ? The Wait のスネアって,こんなにゆっくりで丸くて暖かい音だっけ?
…などと思ったのは事実.
思ったのは事実だが,こんな記事を読んだ後だから自己暗示にかかっていたというのは否定できない.「感動するに違いないんだ」なんて思いながら聴いていたのかもしれない.
科学的に証明されていることだけで人の感情は説明できない.例えば記事中にもあるが,50年代・60年代の若者は,ボロボロのトランジスタラジオから流れてくるひどい音のロックンロールに心を踊らせていたはずだ.
世の中の全てはトレードオフである.圧縮された音楽は感情に訴えるものが少ないとしても,その圧縮率のおかげでモバイルプレイヤーに何百曲という音楽を入れて持ち歩けるようになったわけだ.
じゃあ家で CD やレコードを聴くのと,外で iPod を聴くのと,どちらがいいかと言われれば,それはどちらもいい.
家で酒かコーヒーでも飲みながらクオリティの高い音楽を聴いて,Tears of Rage のタンバリンに心を鷲掴みにされるのと,例えクオリティが低くても,外で移動手段のスピードに合わせて変わりゆく景色を見ながら音楽を聴いて,風と季節を肌で感じるのと,どちらが感動するかと言われれば,はっきり言ってどちらもめちゃくちゃ感動する.
大切なのは,音楽に対する本質的な感謝とリスペクトの気持ちであり,その感じ方にはそれぞれいろいろな形があっていい,というのが個人的な結論です.
それにしても Big Pink 良いなぁ.
2 コメント:
音楽に限らず、映像もそうですねぇ・・・。
ココ最近、痛感させられてます。
そうですね.
画質に関して言うと,巷では「Blu-ray vs HDDVD の戦争が終わって,Blu-ray vs DVD の "real war" が始まった」なんて言われていますが,HD 画質というものがどれだけ一般ユーザーに訴求するのか,あるいはさせられるのかは興味深いですね.
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