2006年12月7日木曜日

家族力 - 「いい親」が子どもをダメにする [memo]

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良書に出会った.
John Rosemond (10冊を超える子育てに関する執筆が全てベストセラーになっている家族心理学者) による本書は,5つの「子育ての基本原則」から構成されている.

基本原則その1: 子ども第一ではなく家族第一
- 何が一番かをはっきりさせる

基本原則その2: しつけに必要なのは,罰ではなくコミュニケーション
- 信頼関係を結ぶことではなくリーダーシップ

基本原則その3: 子育てとは人を大切にする心を育てること
- 自尊心を育てることではない

基本原則その4: 大切なのは礼儀を教えること
- 技術を習得させることではない

基本原則その5: 大切なのは責任感を育てること
- よい成績を取らせることではない


読んでみて心にしみるほど実感したのは,子育てとは,子供を育てることではなく,大人を育てること (大人に育てあげること) である,ということ.

共感した内容は非常に多かったのだが,その中でも特に印象が強かった部分をいくつか紹介してみようと思う.


まず著者は,子育ては夫婦の強い絆があってこそ上手くいくもので,夫と妻の繋りは親子の繋りよりも強くなければならないと説く.

子育ての専門家たちは,家族の本当の意味をほとんど理解していません.家族とは,(理想的には) 強い絆で結ばれた夫婦を中心に形成される社会的な単位です.

現代の子どもたちは,夫と妻という関係を放棄し,父親と母親になりきって子どもに尽くす両親のおかげで,結婚とは何かということを学ぶ機会を失っています.

子供に関心を持ち,子供と深く関わり,子供の為に何かしてやる親ほど良い親だというのは,現代風の間違った考え方なのだ,と.


子どもはつねに,親が選んだ道よりも,自分で選んだ道で,より大きな成功をとげるのです.

この一言は胸に響いた.
私の親は比較的子に期待をかけるタイプだったが,私が子供の頃から思っていたこと,そして親になって改めて自分に言い聞かせることは,親に子の人生を決める権利なんて,これっぽっちも無いということだ.

例え親の期待に沿えない道を選んだとして,それが親を悲しませる結果になったとしても,最終的には子が自分で納得できる幸せを見つけることが親にとっても一番幸せなはずなのだ (それを親に死ぬまで分かってもらえないとしても).少なくとも私は,これまでに何度も経験してきた (そしておそらくこれからも経験するであろう)「親の期待に沿えない道」を選択した時に,半ば無理矢理自分にこう言い聞かせてきたように思う.

ちなみに著者は,この話の流れで「子供たちは放課後の稽古ごとや塾通いを必要としていない」とした上で,習いごとは週に1度までとして夕食は毎晩家族全員で食べること,夏休み中の習いごとは禁止すること,と提案している.家庭内にくつろいだ雰囲気があればあるほど育児上の問題は起こりにくい,子育てのトラブルの大部分はストレスから生じる,とのことだ.

そして「保育所はセカンド・ベスト」と述べ,「家庭での育児は保育所での育児に勝っている」としている.新鮮だったのは,「金銭的なことは,夫婦で共働きをする理由にならない」と言及していたことだ.共働きをしても,世帯にかかる課税率の上昇,保育費,医療費,被服費,交通費,そして食費の増加 (共働きの家庭では外食の機会が多くなる) により,実は妻の収入のほとんどが消えているという調査結果が出ているそうだ.


よい母親は支配的である.

子どもが自分でトイレに行けるようになり,道路に出てはいけないことがわかるようになると,昔の母親たちは,できるだけ子どもに手を貸さないようにしたものです.

子育てがうまくいかないのは,お子さんがあなたを恐れていないからです.

では父親は?

子育てに積極的にかかわる父親をもつ子どもたちは,より自信にあふれ,積極的で自律的な傾向があります.

家庭は子供が最初に経験する社会であり,親がどのような社会を築くかは非常に重要だ.著者は,親子の間では「けじめ」が非常に大切だとして,例えば「親と子が1つのベッドで寝ることは害だ」と言っている.また,物で釣るような言い方 (「これを残さず食べたらアイスクリームをあげるよ」など) とか,脅すような言い方 (「片付けないとこのおもちゃ捨ててしまうよ」など) もするべきではない,と.この辺りは非常に耳が痛い.


さらにしつけに対する著者の考えは,目から鱗が落ちるようだった.

しつけのうまい親は,子どもを思いどおりにしようとはしません.そんなことはできないと知っているからです.彼らがコントロールしようとするのは,自分たちにできることだけ.つまり,子どもとの関係だけコントロールしようとするのです.

しつけのテクニックなんていうものは存在しないということ.

現代の親たちは,しつけは技術であると考えており,実験用のラットを水や飲み物で誘い,仕切り板を押し開ける動作を教えこむのと同じだと考えています.

そう,子供は実験用のラットでもなければ,犬や猫でもないのだ.子供をコントロールしようとしてはいけないし (それは私が親に一番されたくなかったことではないか),そもそもそんなことはできないし,またする権利もない.

さらに極めつけは,この部分.

しつけとはリーダーシップであり,しつけで一番重要なこと - つまりよいリーダーになるためにもっとも重要な特性 - は,コミュニケーション能力です.

今の時代に見られるもう1つの不幸は,子どもの友だちになろうとする親が増えていることです.子育てはリーダーシップだとわかっている親なら,リーダーは自分が率いる者と友達になれないことぐらいは知っているはずです.友情とリーダーシップは両立しないからです.

「しつけはリーダーシップ」という言葉に,非常に感銘を受けた.
私は会社ではリーダー的立場にあり,それなりにリーダーシップやコーチング手法を体得しようとしてきた.またこの Blog でも,「エンジニアにとって,技術力よりさらに重要なのはコミュニケーション能力である」と何度も述べてきた.それが,子育てでも同じだと著者は言うのだ.

そしてコミュニケーションのやり方として,

「さあ,おもちゃを片づけましょう.いいわね?」
このような卑屈な態度は,子どもに「指示を出している」のではなく,子どもに「頼んでいる」のです.

大部分の親たちが使う「ミルクトースト・スピーチ」ではなく,優れたリーダーたちが使う「アルファ・スピーチ」を使うべきだとしている.これに関する詳細は,別途「リーダーシップ」という観点で,次回の記事にしたいと思う.


「コミュニケーションが大切」とする著者が,それでも子供に罰を与える必要がある時は,

約束を破った子どもに2度と同じことをさせたくないのなら,子どもが約束を破ったときに,厳しすぎるほどの罰を与えるべきです.子どもを手の甲でおそるおそるたたくタイプの親は,ずっと手の甲でたたき続けることになります.

とのこと.

念の為に補足しておくと,もちろんこれは子供を虐待するということではない.例えば決められた範囲を越えて自転車を乗った子供に対して,自転車を1日取りあげるのではなく,最低1ヶ月,つまり子供が十分すぎるほど不自由さを味わう必要があるということだ.



私は,親になって本当に良かったと思っている.子供を育てている以上に,私自身が子供に育てられている感覚を毎日感じているからだ.親は子供と一緒に成長できるものだということを,身を持って実感している.だが,著者に言わせればそんなものは甘い考えなのかもしれない.冒頭でも述べたこと,忘れないように,もう1度胸に刻んでおこう.子育てとは,大人を育てるものだということを.今日や明日を考えてするものではなく,20年,25年先を見据えて行うものだということを.

この本は,親としていろいろ考えさせられただけではなく,自分の親が私に対して行った子育てについても深く考える機会となった.

そういう意味では,子育てを経験している親,これから親になろうとしている方にはもとより,まだ親元を離れていない若者にもぜひ勧めたい1冊である.


2 コメント:

匿名 さんのコメント...

> 友情とリーダーシップは両立しないからです.

この部分思わず立ち止まってしました。確かに一理ありですが、心のどこかでそうは言い切りたくないような…。親はさすがに選べませんが、自分たちで選んだor納得したリーダーでも両立は無理でしょうかね?世継で決まる江戸時代将軍的リーダーではなく、民主主義に基づくリーダー。

Toshiya Hasegawa さんのコメント...

同感ですね.

確かにこの本は素晴らしくて非常に感銘を受けましたが,Rosemond の言ってることが全て正しいと言うつもりはありません.

例えば他の章では,「ボスが,権威を行使するべき相手と親しくなってしまうと,権威的にふるまえなくなります」とも書いてあるし,他のコーチングの本にもよく「部下とは絶対に飲みに行くな」みたいに書いてあったりするんですよね.

でも実際に,私の過去の経験や,現在のまわりの環境を見ても,そんなことはない気がしています.

私のまわりの「優秀なリーダーたち」を改めて観察してみると,「メンバーと仲良くするけど一定の距離を保つ人」「仕事とプライベートで完全に人格が変わる人」「自分で完璧な仕事をして,それを持って部下に権威を示す人」など,いろんなタイプがいておもしろいとは思いましたがね.

私の解釈は,互いの関係に「けじめ」があることが重要であって,結局そこが一番言いたかったことなんじゃないかと.仲が良くなってしまって「馴れ合い」が生じるようではまずいですが,仕事の責任を持った上での友情は,むしろチームワークを高めるんじゃないかな? と個人的には思っています.

確かに個人的なことを言うと,「仕事上の関係から入って,その後仲良くなったメンバー」は問題ないんですが,最初にすごく仲良くなってその後たまたま仕事で関わることになった同期とかは,多少やりにくさを感じることもあります.

いずれにしても,どんな本であってもその内容を丸飲みするのではなく,自分なりに消化して自分の置かれている立場や環境に適用していくことが大切なわけで,王道が存在しない中でいかに全体の成果を高めるやり方をするか,ということですよね.