デザイン思考の道具箱 - 創造性は方法の問題である [book]
日本の多くのメーカーはいまなにをつくっていいのかわからなくなっている。新製品開発現場で自信をもって商品開発をおこなっているところは非常に少ないはずである。
-- まえがきより
イノベーションを起こす為の公式や方程式があれば苦労は無いわけで,身も蓋もない言い方をすれば,多くの場合それは「天才のひらめき」だったり「たまたま」だったりする.
ただそれにしても,「どのようなプロセス,及びメンタリティで臨むべきか」については体系化できるところがあり,本書はそれを「デザイン思考」として提唱しています.
著者は,
創造性は個人の才能ではなく、方法の問題、ひいてはマネージメントの問題である
と主張します.
方法さえ身につければ,誰でも創造性を発揮できると言うのです.
本書の第1部では前フリとして,経営戦略の観点から,デザイン思考の重要性を説いています.IDEO や Apple の iPod など,デザイン思考を経営戦略として実践する組織の活動,及びデザイン思考の粋を集めた製品を紹介し,これからの商品開発を論じています.
第2部が,本題のデザイン思考の道具箱.具体的な方法論を紹介しています.創造のプロセスを解説し,さらにプラクティスとして「経験の拡大」「プロトタイプ思考」「コラボレーション」という題材を扱い,加えて下流のプロセスとして「イノベーションの評価」を説明しています.
少し内容について触れておくと,創造のプロセスは以下の通り.
ステップ1: 哲学とビジョンの構築
ステップ2: 技術の棚卸しとフィールドワーク
ステップ3: コンセプト/モデルの構築
ステップ4: デザイン (デモンストレーション用プロトタイプのデザイン)
ステップ5: 実証
ステップ6: ビジネスモデル構築
ステップ7: ビジネスオペレーション
プロセスが「哲学」からスタートしているのは興味深く,さらに同じ意味で語られがちな「ビジョン」と「コンセプト」を明確に分け,「コンセプトとはビジョンを可能にするために具体的な技術を組み入れて検討した解決策」とし,その両者をステップ2が繋いでいます.
ステップ4では,フォームブレスト,ダーティープロト,ビデオプロトと,様々な粒度のプロトタイプを説明した上で,デザインが決まってから作るのではなく,「考えるためにプロトタイプを行う」ことの重要性を説いています.余談になりますが,ACDM では "prototype" と "experimentation" という言葉に分け,製品に直結するような試作 (prototype) ではなく,製品には繋がらない,考えるための試作 (experimentation) というものが登場しますが,概念としては似ていると言えるでしょう.
このステップ4までがプロセスの上流にあたります.
特筆すべきは,一般的に「哲学」や「ビジョン」は相談して決めるようなものではなく,強い意志を持った個人が提唱するものであるところ,ここではあえて組織の中でチームとしてそれを構築するやり方を解説している点.
振り付けを覚えたら急にダンスが踊れるようになるわけではないように,創造のプロセスについても,実践するには理解だけではなくトレーニングが必要です.それを「経験の拡大」「プロトタイプ思考」「コラボレーション」という3つのプラクティスとして,1章ずつを割いて解説しています.
「技術よりユーザーが受け取る体験が重要」といった言葉,あるいは「プロトタイプ・ファースト」といった開発手法は,開発現場でよく聞くはずですが,それらの本質的な意味,作用の仕方,実施の手順と方法を,あえて「道具箱」という形で体系化している本書は,モノ作りの現場において注目されるべき1冊です.
道具は使い方を知らなければ役に立たないし,使い方を誤れば凶器にさえなる.やはりそれをどう活かすかについては,読者に委ねられます.とは言え,製品やサービスを手掛ける開発者のみならず,クリエイティビティを発揮するような立場にある人は,知識として自分の引き出しに入れておくべき道具を,本書で手に入れてみてはいかがでしょうか.
あれば便利なのに誰もつくってくれなかった商品をつくれば、大きな利益が出る。この単純なことを、企業はなぜできないのだろうか。それは、組織経営の中に、デザインをするという要素、クリエイティブな要素を評価する環境や制度がないからだ。
-- 本文より
デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方 奥出 直人 |
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