2011年10月23日日曜日

Remembrance of Steve Jobs [reflection]

スティーブ・ジョブズが亡くなってから,2週間半が経ちました.

私はその時ちょうどキューバに行っていました.キューバは,テレビをつければ昼は野球中継,夜は野球ニュースをやっているような国で,(国交が無く経済封鎖されている) アメリカのニュースも入って来ず,いやもしかしたら入ってきてたのかもしれないけど,スペイン語は分からないので,そもそもメディアには積極的に触れていませんでした.

なので,私がその訃報を知ったのは日本に帰国した時,彼が他界してから10日後でした.その頃には Twitter もすっかり落ちついていたし,まわりも「今頃何言ってるの?」という感じで,私にとっては未だに実感がありません.

既にいろんな人がいろんなことを綴っているし,タイミングも逸しているので,ブログに書くのはやめておこうと思いましたが,自分の気持ちに整理をつける為に,そしていつか自分の子供に「こんな人がいたんだよ」と伝える時の記録として,私が見てきたスティーブ・ジョブズを書いておきます.


まずは,今となってはあまりにも有名な,2005年のスタンフォード大学卒業式で行ったスピーチ.見たことがない方は,これだけでも見てほしい.




天才的と言われた彼のプレゼンで心に残るものは沢山あるけれど,私が最初に思い出すのは1997年の Macworld での基調講演です.プレゼンテクニック云々という次元ではなく,感情に訴えかけるスピーチでした.

自ら設立した Apple から1985年に解雇され,90年代には衰退の一途を辿り明日にでも潰れそうだった死に体の Apple に,スティーブが復帰した時の講演です.Apple に対する世間の批評を改めて紹介し,「Apple は素晴らしく実行している…間違ったことを」「プランが間違っているんだ」などと Apple が抱えていた問題を赤裸々に告白し,聴衆からブーイングも起こった Microsoft との提携を発表する時にはユーモアを折り混ぜ,そして真顔で「Apple を healthy に戻すにはどうすればいいか話したいんだ.僕はそのことに,とても大きな自信を持っているんだ」と.

ここでは最後の2分の締めの部分をリンクします.Apple が置かれていた状況とは裏腹に,希望と自信に満ち溢れ,まるで今日の成功を見据えているかのような静かな誇りと闘志,そして何より自らを解雇したこの企業に対する愛情が感じられます.




この時彼が打ち出した "Think Different" というコンセプトを,詳細に説明しているのがこの講演.この考え方は,ずっとスティーブの根底にあったんだと思います.



もう1つスティーブの根底にあったものを表しているのが,1982年のスティーブの部屋の写真.余計なものは置かないミニマリストの彼のセンスは,Apple 製品の "simplicity" に息づいています.




彼が Apple に戻った頃の映像でもう1つ印象的なのは,1997年の WWDC.聴衆の1人から「お前は何も分かっていない.一体この7年間何をやっていたんだ?」という非難を受けます.これに対してスティーブは,しばらく考え込んだ後,怒りに身を任せることもなく「顧客体験が先ずあって,そこにテクノロジーをマッピングするんだ.その逆であってはならない」といったことを,真摯に語ります.



この時の WWDC は,聴衆との質疑応答という近年では珍しい形態に加え,当時の彼のインターネットについての考え方が聞けるなど,いろいろ興味深い話が多いので,セッション全体のビデオをリンクしておきます.
http://youtu.be/3LEXae1j6EY


ここ最近のプレゼンで印象深いのは,何と言っても iPhone の発表でしょうか.「全世界の家電メーカーが力を合わせても Apple 1社に勝てなかった日」と言われた日です.この時のスティーブはいつもに増してオーラをまとい,「この世界を変える衝撃的な製品を早く伝えたくて待ちきれない」といった様子でした.

「新しい iPod,革新的な携帯電話,インターネットコミュニケーションのブレークスルーを発表する.でもこれらはそれぞれ違う3つのデバイスじゃないんだ.1つのデバイスなんだよ」と.



そしてデモの中で,「(聴衆のみんなの) 4000個のラテを持ち帰りで! 冗談だよ.間違い電話♪」と,本当にスタバに電話してしまった時は最高に痛快でした.




それに対して iPad の発表では,いつもの神がかった雰囲気は無く,なんともリラックスしたスティーブがいたように思います.

個人的には,数ある彼の発明の中で,iPad が最高傑作だと思っています.1970年代後半から彼が取り組んできた「テクノロジーを,普通の人にカジュアルに届ける」という野望を,一番彼のイメージに近い形で具体化した製品だったのではないでしょうか.

このリラックスしたスティーブは,プレゼンで多くのことを語らなくてもただこの製品を見てもらえば分かる,という自信からきていたような気がします.




そう言えば,いつも用意周到の天才的なプレゼンを行ってきた彼ですが,リモコンがきかなくなってスライドを送れないというトラブルが発生したことがありました.この時も彼は取り乱すことなく,即興で高校時代の想い出を語って場を繋ぎました.これには脱帽でしたね.




バツが悪い質問に対して "My sex life is pretty good. How is yours?" とトボけるスティーブもイカしてたし,でも製品のことを語る時は力強く「BEST を作るんだ」と.
Peace Pipe: Because we wanna make the best product in the world for customers - Steve Jobs at D8 Conference [memo]


孫正義は,スティーブ・ジョブズのことを「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と言いました.私も,彼はダ・ヴィンチやミケランジェロ,あるいはエジソンなどと同列に語られるべき,芸術家・発明家だと考えています.そんな人と同じ時代を生きることができて,その証人として彼のアーティファクトを体験することができて,本当に幸せだと思います.

スティーブの「なぜ Apple は好調なのですか?」と聞かれた時の答えは,「愛」だったそうです.他の会社は単純に製品に対する愛が足りないのだと.強い意思と明確なビジョンを持ち,アイデアだけではなくそれを実現するまでの決断力と実行力を伴い,私たちのライフスタイルを,いやそれだけではなくキャリアや音楽業界まで変えてしまった,愛に溢れた男.

彼に憧れ,その考え方に共感し,彼が発明するものに心を踊らせてきました.

Apple の製品はクールだった.それを使っている自分もクールな気がしてくる程に.

そして同業者として,その度になんだか羨しく,そして無性に悔しかった.

できれば,Apple というオモチャを使って無邪気に遊ぶ子供のようだった,あなたの「マジック」を,もう少し見たかったなぁ.

Peace Pipe: Please get well, Steve [diary]

完全な私見だが,人類の歴史の中にビル・ゲイツという人間がいなくても,今日のコンピューター革命は今と同じものになっていただろう.つまりゲイツがいなくても,PC は今と同じようなものになっていたに違いない.きっと他の誰かがやっただろう.

だが,Mac も iPod も iPhone も,スティーブ・ジョブズ無しには在り得なかった.

(中略)

単純に,ジョブズはカッコいいと思うのですよ.

Do me a favor and get well, Steve.



もちろん彼は聖人ではありません.実際に「一緒に仕事をするには難しい性格」という声はよく聞かれていました.でも1つ言えることは,冒頭で紹介したビデオの中でスティーブが言っている "the people who are crazy enough to think they can change the world...are the ones who do" というのは,彼自身のことだったということです.


We'll miss you, Steve.
Thanks for being who you are.

Almost everything - all external expectations, all pride, all fear of embarrassment or failure - these things just fall away in the face of death, leaving only what is truly important.

-- Steve Jobs




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