Thursday, July 5, 2012

ツイッターノミクス - ウッフィーという未来の貨幣でリッチになろう [book]

ツイッターノミクス TwitterNomics

オンラインマーケティングの第一人者,タラ・ハントによる渾身の1冊.

タイトルが誤解を与えるかもしれませんが,本書はツイッター本ではなく,ツイッターをはじめとする様々なネットサービスやツールによって,我々が住む世界のルールと物事の価値が,どのように変わったかを紐解く本です.

解説を寄稿している津田大介氏の言葉を借りれば,生きたソーシャル・メディア解説書であり,使い勝手の良い指南書でもある.


著者は,ウェブの世界で成功する方法は,3つしかないと断言します.
「ポルノ」「運頼み」「ウッフィー」です.

ポルノはお勧めできないし,運頼みというわけにもいかないということで,本書はいかにウッフィーを増やすかを主題に置きます.

ウッフィーとは,元々コリイ・ドクトロウの SF 小説に登場する未来の貨幣であり,ネット上の人徳やカルマみたいなもの - インターネットにおける信頼・評判・尊敬・影響力・人脈・好意…の積み重ねであるとされます.例えば Twitter などで有益な情報をつぶやいたり,ユニークな視点を披露したり,単におもしろいことを言ったりして,他のユーザーに好かれ,一目置かれれば,ウッフィーは増えていくというわけです.


そういえば,ちょっと前にこんなことをつぶやいたけど,

1) ネット上に一定規模のプレゼンスを持つ。 2) コードがバリバリ書ける。 3) 1人でゼロからシナリオが書ける。 少なくともどれか1つは無いと、技術系のマネージャーは信頼を勝ち取れない。政治家と評論家と、自分じゃ何もできないファシリテーターばかりじゃないか。Mon May 28 21:30:00 via Tweetbot for iOS


1) は「ウッフィー・リッチであること」と言い換えられるわけだ.


そして著者は,ウッフィーを増やす為の原則を,以下のように定義しています.
1. 大声でわめくのはやめ,まずは聞くことから始める
2. コミュニティの一員になり,顧客と信頼関係を築く
3. わくわくするような体験を創造し,注目を集める
4. 無秩序もよしとし,計画や管理にこだわらない
5. 高い目標を見つける

…と,これだけ書くと漠然としていますが,本書では第3章以降でそれぞれについて,実例を結びつけながら,かなり詳細に解説をしています.

【第1章: ウッフィーって何?】
それは、ウェブの世界では「お金」よりはるかに価値のある「通貨」である。それは与えることによって増えていく。貢献することによってたまっていく。

【第2章: Twitterはテレビ広告よりも時には効く】
かつて、物を買わせようとするならば、テレビなどの大メディアの広告を使うしかなかった。SNSの登場は消費者の購買活動に劇的な変化を起こした。

【第3章: デルは、商品に対する不満も公開した】
パソコン市場トップのシェアに達したデルは、驕っていた。カスタマーサービスはおざなり。ブロガーの言うことは無視。しかし株価の急落で目覚める。

【第4章: ウェブ上で顧客を増やす八つの秘訣】
「荒らし」にはどう対応したらいいか。アイデア募集に賞金をつけるべきか。Facebook、WindowsVista、レストラン検索サイトなど具体例から学ぶ。

【第5章: ただ一人の顧客を想定する】
旧来のマーケティング手法、グループセグメントはウェブではうまく働かない。ただ一人の顧客を思い描いて、商品を設計し語りかける。するとうまくいく。

【第6章: ウェブ2.0、各種メディアをいかにつかいこなすか】
ブログ、ポッドキャスト、Twitter、wiki、ソーシャル・ブックマーク、フォーラム、SNSなどウェブ2.0に花開いた各種のメディアの特性と利用法。

【第7章: ウォルマートの失敗に学ぶ】
それでは、PRのプロを雇いブログを書かせ、サクラをつかってフォーラムを立ち上げるというのは?αブロガーに金を払うというのはどうだろう?

【第8章: アップルはなぜ人をわくわくさせるのか】
持っているだけでわくわくするそんな体験を創造することこそウッフィーを高める。モレスキンの手帳、ボージュ・オー・ショコラなどそこには体験がある。

【第9章: 無秩序をあえて歓迎する】
ウェブ上では、がちがちに計画をたてるより、むしろ予想できないことをとりいれるようにするとうまくいく。私自身が関わった市交通局のフォーラムから。

【第10章: 社会貢献そのものを事業目的にする】
ウェブ上の起業では、目先の利益を追うとコモディティ化の罠が待つ。そうではなく、社会貢献それ自体を事業の目的にして成功したクレイグズリストなど。

【第11章: ツイッターノミクスのルール】
まとめてみよう。ウェブ2.0の様々なツールの発達で、まったく違う市場経済が出現した。個人も組織も、その新しい世界に対応したものが成功するのだ。


本書を通してこの原則を解説する過程で,著者は他にも

- ウェブ上で顧客を増やす8つの秘策
- 人の心を掴む製品やサービスの為の11のヒント
- 無秩序の中にチャンスを見つける11のコツ
- 顧客を大切にしている企業の特徴
- 顧客を大切にしていない企業の特徴

などといった,ともすれば机上の空論になりそうな内容を,とても分かりやすく体系的にまとめている.著者の経験と豊富な実例を交えて展開される内容は,1つ1つが説得力をもってしっかりと腹に落ち,企業・組織から個人まで,様々なレベルで適用が可能でしょう.

本のコンセプトとしては,先日書評を書いた グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ に似ています.「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」が,読みやすさと引き換えに,内容を概念的なところに留めているのに対し,本書はその内容を深掘りし,理論の裏付けをしている.ぜひこの2冊は合わせて読まれることをお勧めします.

本書の出版は2010年.ドッグイヤーとも言われるネット時代のスピードにおいて,2年前というと「一昔前」であり,現実世界に照らし合わせて具体的に解説をしている本だからこそ,多少古さを感じさせる部分もあります.しかし,ネットが日常のルールと価値をどのように変え,我々がどんな時代に生きているかを把握するのに,これ以上の本は無いでしょう.


日本では著作権法改正が物議を呼んでいる昨今,個人的にはとても心に残った,著者のこんな一言を最後に紹介して本エントリーを閉めたいと思います.

私はときどき音楽業界について、こんな空想をする。レコード会社が目を覚まし、あれは両方が負けに終わる不毛な戦争だと気づいたら。そして、権利だ何だと四角四面に構えず、音楽体験をデザインする新しい方法を見つけたら。そうなったら、あの業界はどんなに魅力的になるだろう。

-- Tara Hunt (本文より)


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タラ・ハント
津田 大介(解説)
文藝春秋 2010-03-11






タラ・ハント『ツイッターノミクス』村井章子=訳 津田大介=解説|特設サイト|文藝春秋
@tsuda さんによる「ツイッターノミクス」解説まとめ - Togetter


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