2006年5月1日月曜日

Fragile Findability の美学 [memo]

前回のエントリー の続き.

このエントリーでは「Ambient Findability」という概念と,本の著者である Morville の ユーザーインターフェースに言及した記事 などを基に,私の思うところについて語ってみたいと思う.

「Too much is never enough」という言葉があるが,そもそも「Ambient」とか「Ubiquitous」とかいう言葉に私は少し懐疑的だ.ある程度 Findable になった時点で,そのレベルにおいてまたさらに Find するべき対象が発生するわけで,究極的に Findable な世界というのはあり得ない (以前紹介したような,「Brain」や「Future」まで検索できる Google でもできない限り).

もちろんこれは重箱の隅をつつくような話であり,「Ambient Findable」かどうかは別として,少なくとも多様な情報に今よりずっと簡単にアクセスできる時代が必ずやってくるという点においては賛同する (本書も本質的には「究極」を謌っているわけではなく,それをあえて「Ambient Findability」と語っていると理解する) が,キーワードだけが先走りするのはいささか危険かもしれない.

その中で思うことは,例えば産業革命時代に,「西海岸から東海岸まで鉄道で移動できるようになったら流通業界に一体何が起きてしまうんだろう?」といった議論はいくつもあったと想像するが,鉄道どころか飛行機で数時間になった今日ではそれが当たり前になっている.つまり,現代のような情報社会の進化の過渡期においてこそ「Ambient Findability」のような議論がもてはやされるのかもしれない.いずれにしてもこのような議論を経て未来が創造されるわけで,議論自体が無駄だとは思わないが.


それでユーザーインターフェースの議論に話を移した時に,モノ作りを生業としている私が強く思うのは,逆に「情報が見つけられない,あるいは見つけさせない美学」みたいなものもあるのではないかということ.

例えば銀行の ATM マシンは,お年寄りから若者まで使えるように非常に分かりやすく設計されている (はずである,実際にそうかどうかは置いといて).でも ATM の操作が楽しくてしょうがなく,「あまりにハマっちゃうからついついお金おろしたくなっちゃうんだよねー」なんて人は絶対に居ない.つまり情報社会においては対象へのアクセスのしやすさが1つの命題であっても,家電を始めとするデバイスやサービスなどを考えた時に,「分かりやすいこと」「Findable であること」は必ずしも「最終目標」ではないということだ.

顕著な例を挙げるなら,ゲームなどもそうだろう.全てが「Findable」で簡単にクリアできてしまうような RPG は成り立たない.そこの「見つけられるか見つけられないかギリギリのところ」を追い求める,言わば「Fragile Findability」は UI において普遍的な概念だと考える.

重要なのは,Fragile Findability の概念も,Ambient Findability の上に形成されるべきであるということ.いくらオモシロ味のある UI であっても,そもそもの使い方が分からなければ意味が無い.つまり,技術や表現方法の進化に伴い刻一刻と形を変える「Ambient Findability」の,その時その時のレベルにおいて,その上に乗っかる (普遍的な概念であるはずの) Fragile Findability も姿を変えて提供されなければいけないということで,「Findability」の議論だけではなく,この両者の関係にこそアンテナを張り巡らせておくと,また興味深い視点が生まれるのではないかと思うのだ.




3 コメント:

匿名 さんのコメント...

はじめまして。Diigoについて調べててたどり着きました。UIを勉強しようと思っているのですが、「見えない美学」興味深いです。意見などはまだ言えませんが。他の記事も後でゆっくり読ませていただきたいと思います。

Toshiya Hasegawa さんのコメント...

ノザワさん,はじめまして.ご興味を持って頂けたようで嬉しいです.
この Blog,基本的に私の思いつくままに書いているので記事の内容もバラバラですが ^^; 良ければ他の記事も読んでやって下さい.なにかあればまた気軽にコメント下さいね.

匿名 さんのコメント...

「アンビエント・ファインダビリティ」と「フラジャイル・ファインダビリティ」についてブログで書こうと思ってGoogleで検索したら、見つけちゃいました。(^^

貴重な意見だと思うので、トラックバックさせてください。 m(_ _)m