「スピード感がある組織」って,何のスピードが速いって,それは意思決定のスピードだと思う [management]
意思決定とは判断である.いくつかの選択肢からの選択である.
(中略)
意思決定についての文献のほとんどが,まず事実を探せという.だが,成果をあげる者は事実からはスタートできないことを知っている.誰もが自分の意見からスタートする.しかし,意見は未検証の仮説にすぎず,したがって現実に検証されなければならない.そもそも何が事実であるかを確定するには,有意性の基準,特に評価の基準についての決定が必要である.これが成果をあげる決定の要であり,通常最も判断の分かれるところである.
したがって成果をあげる決定は,決定についての文献の多くが説いているような事実についての合意からスタートすることはない.正しい決定は,共通の理解と,対立する意見,競合する選択肢をめぐる検討から生まれる.
最初に事実を把握することはできない.有意性の基準がなければ事実というものがありえない.事象そのものは事実ではない.
物理においては物の味は事実ではない.またかなり最近まで物の色も事実ではなかった.これに対し,料理においては味は格段に重要な事実である.絵画においては色が意味をもつ.物理,料理,絵画はそれぞれ異なるものを意味ありとする.したがって,それぞれ異なるものを事実とする.
(中略)
したがって,現実に照らして意見を検証するための唯一の厳格な方法は,まず初めに意見があること,またそうでなければならないことを明確に認識することである.こうした認識があって初めて,意思決定においても科学においても,唯一の起点として仮説からスタートしていることを忘れずにすむ.われわれは仮説をどう扱うかを知っている.論ずべきものではなく検証すべきものである.こうしてわれわれはどの仮説が有効であって真剣な検討に値し,どの仮説が検証によって排除されるかを知る.
したがってまず初めに,意見をもつことを奨励しなければならない.そして意見を表明した後,事実による検証を求めなければならない.「仮説の有効性を検証するには何を知らなければならないか,意見が有効であるには事実はどうあるべきか」を問う必要がある.
同時に,探すべきもの,調べるべきもの,検証すべきものが何であるかを徹底的に考え明らかにする習慣を身につけなければならない.そして意見を表明する者に対しては,それによっていかなる事実が予想されるか,いかなる事実を探すべきかを明らかにする責任を負うよう求めなければならない.
おそらくここにおいて決定的に重要な問いが「有意性の基準はなにか」である.この問いへの答えから,検討中の意思決定に必要な評価速的の基準が得られる.成果をあげる正しい決定がいかに行われたかを分析すれば,きわめて多くの思考と労力が評価測定の基準を得ることに投じられていることを知る.
成果をあげる決定を行うには,それまでの評価測定の基準は正しくないものとみなさなければならない.そうでなければ,そもそも決定の必要はなく,簡単な調整で十分なはずである.昨日の決定は昨日の評価測定の基準を反映している.新しい決定が必要になったということは,それまでの評価測定の基準がもはや意味を失ったことを意味する.
評価測定のための基準を見出す最善の方法は,すでに述べたように,自ら出かけ,現実からフィードバックを得ることである.つまるところこれは,決定前のフィードバックである.
(中略)
判断を行うためにはいくつかの選択肢が必要である.1つの案しかなく,それにイエス,ノーをいうだけでは判断とはいえない.いくつかの選択肢があって初めて,何が問題であるかについて正しい洞察を得られる.したがって決定によって成果をあげるには,評価測定の基準についてもいくつかの選択肢が必要である.それらの中から最も適切な基準を選び出さなければならない.
(中略)
成果をあげるエグゼクティブが,教科書のいうような意見の一致を無視して意見の不一致を生み出すのはこのためである.
(中略)
最後に,意思決定は本当に必要かを自問する必要がある.何も決定しないという代替案が常に存在する.意思決定は外科手術である.システムに対する干渉でありショックのリスクを伴う.よい外科医が不要な手術を行わないように,不要な決定を行ってはならない.
(中略)
とうとうここで,決定には判断と同じくらい勇気が必要であることが明らかになる.
(中略)
ここで絶対にしてはならないことがある.もう1度調べようとの声に負けることである.それは臆病者の手である.臆病者は勇者が一度死ぬところを,1000回死ぬ.「もう1度調べよう」という誘惑に対しては,「もう1度調べれば,何か新しいことが出てくると信ずべき理由はあるか」を問わなければならない.もし答えがノーであれば再度調べようとしてはならない.自らの決断力のなさのために有能な人たちの時間を無駄にすべきではない.
-- ピーター・F・ドラッカー / 経営者の条件 第7章 「成果をあげる意思決定とは」より
経営者の条件 ピーター・F・ドラッカー |
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