資産運用をしないということは,資産運用をしないという投資をしている [memo]
最初に結論を書いておくと,私は,全ての人が株で儲けることを考える必要はないと思いますが,全ての人が資産運用を考えるべきだとは思います.
ここで1つ問題です.
あなたの手元に100万円あったとします.あなたは,この100万円を,家の金庫にしまっておきました.10年後,この100万円は,いくらになっているでしょうか? (金利はここでは考えません)
答えは,必ずしも100万円ではありません.
物理的には当然100万円ですが,価値としては100万円かどうか分からないのです.
今日,キャベツが1玉1万円だと仮定すると,100万円で100玉買えます.10年後,インフレによりキャベツが1玉2万円になっていれば100万円で50玉 (今日の価値で50万円).デフレにより1玉5千円になっていれば100万円で200玉 (今日の価値で200万円).
つまり10年後の物価が今日とまったく同じでない限り,この100万円の価値は,100万円ではないのです.例え物価が変わらなくても,最近で言えば消費税の引き上げは実質的な物価上昇ですし,資産を「日本円」でしか保有していない人は,昨今の円安で被害を被っているわけです.
もちろん上記は,話を極端に単純化した例え話です.
この100万円は実際のあなたの資産,キャベツはあなたの子供が大学に行く時の入学金などに,置き換えて下さい.
ですので,少なくとも景気に沿った資産運用は全ての人が選択肢として持ち,その為の基礎知識は身に付けておくべきだと考えるのです.
以上を踏まえて,本を3冊紹介します.
この順番で読まれることをお勧めします.
経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫) 佐藤 雅彦・竹中 平蔵 |
経済というものを,とても分かりやすく解説した1冊です.
こちらでレビューしています.
Peace Pipe: 経済ってそういうことだったのか会議 - 最低限の経済知識を身につけておく為に [book]
「お金の正体」「株」「税金」といった基本的な概念からはじまり,「アメリカ経済」「円・ドル・ユーロ」「アジア経済」といった話に発展し,終盤では「投資と消費」「起業とビジネス」「労働と失業」といったところにまで踏み込んでいます.
(中略)
好むと好まざるとに関わらず,我々の生活は,経済の仕組みの上に成り立っています.
もちろん経済のことが分かったからといって生活が向上する保証などありませんが,何か得体の知れないモノが生活の基盤としてあるよりは,納得感をもって毎日を送ることができるでしょう.
なぜ投資のプロはサルに負けるのか?― あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方 藤沢 数希 |
タイトルが釣り気味なので Amazon 上には微妙なレビューもポストされていますが,私には,「ファイナンス」の要点が,とてもよくまとまっている本に思えました (著者のブログの焼き直しではありますが).
マネーの世界の様々な側面を紐解いた上で,
- リスクとリターン,リスク・プレミアム
- 金利,現在価値と将来価値,ディスカウント・レート
- 金融商品の価値計算方法
- 市場の効率性
- 現代ポートフォリオ理論
…といった概念を解説し,最後に投資の実際について具体的に触れています.
どんな資産運用テクニック本を読むにしても,まずその前にこの本を読んで,上流の考え方を理解するのが良いと思います.著者は,あの恋愛工学を提唱している藤沢 数希氏で,少しクセのある文章ではありますが,それさえ我慢できれば良書です.
内藤忍の資産設計塾【第4版】 (豊かな人生に必要なお金を手に入れる方法) 内藤 忍 |
さらにもう1歩踏み込むとしたら,こちら.現在第3版まで出ていますが,2015年5月に第4版が出版されるので,今なら1ヶ月待って最新版を買った方が良いでしょう (上記リンクは第4版の予約注文ページです).
- 資産設計を始める前の7つのマインドセット (心理編)
- 資産を殖やす7つのセオリー (理論編)
- 個人投資家が使える11の金融商品 (知識編)
- 実際に運用するための6つのプロセス (実践編)
- 資産設計をさらに充実させる9つのポイント (応用編)
と,様々な角度から,体系的にまとめています.
知識として知っておく分にはとても有益ですが,全ての人がこの本に書かれている内容を駆使するほど,投資をする必要はないと思います.
最後に,私なりの考えを書いておきます.
あくまで私の方針とケースであり,他の方に推奨するものではありません.
私の場合は大前提として,
(1) 積極的に儲ける為に投資をするのではない
(2) 人生で一番価値のある資産は時間
という信念があります.
(1) について.
株で一儲けしようという方は,ここに書いたことに賛成・反対される以前に,そもそも私とは,見ている世界が違う方です.もしお金を儲けたければ,株以外に有効な手段があるというのが私の主張であり,それは地道に働くことです.
ギャンブルの世界では,「勝つこと」より「負けないこと」が鉄則とされています.そしてギャンブルには,「絶対に負けない方法」が存在します.それは,やらないことです.私にとって,アクティブ運用や FX は,ギャンブルなのです.
私は,誇りをもって今の会社に勤めていますが,他にも,働いてみたいと思う魅力的な企業は世界にたくさんあります.実際には,何社も同時に働けるわけではない.ですが社員という形ではなく,株主という形で,企業の一員となることはできる.「働いてみたい」と思えるほどクールな企業の一員として,応援をするというか,大袈裟に言えば少しだけ運命を共にする…それこそが私にとって株の本質であり,私が個別銘柄を買うとしたらそんなモチベーションです.
(2) について.
投資にかける時間は,最小限にしたい.全ての投資の中で一番リターンが大きいのは「自己投資」であり (一説には利回り25%から40%),頻繁に株価をチェックするなら,その時間で本を1冊読みたい.この理由からも,私はインデックス運用を基本としています.
具体的には,生活費の数ヶ月分を手元に置いておき,余剰金は住宅ローンの繰上返済に当て,子供の学費や修繕費など将来必要になると予想される費用,及びその他の資金を,国内 ETF,先進国・新興国インデックスを基本として,いくつかの金融商品に分散して積み立てています.少し説明しますね.
まず,生活費の何ヶ月分を手元に置いておくかは,本業のリスクに応じて変わってきますが,3ヶ月程度が一般的と思われます.マックスを6ヶ月として,「明日仕事が無くなったら,次の仕事に就くまでにどれぐらいかかるか」という観点で決めれば良いと思います.
また,「借金がある時は,投資をするより借金を返済する」というのは通説で,住宅ローンも借金に含まれます.最近の住宅ローン金利水準を考えると,繰上返済をするより株式投資をした方がリターンが大きそうですが,借金返済はリスクの無い確実な運用であり,費やす時間やエネルギーまで含めたコスト対効果で考えれば,私は現状においても繰上返済の方が得策だと考えます.
資産の分散は運用の肝ですが,最適なアセットロケーションは人によって異なります.外資系企業に勤めていて報酬の一部を外貨建ての自社株で受け取る人と,国内でビジネスをする自営業の人と,市場の株価が報酬に直結する証券マンでは,それぞれ戦略がまったく異なるはずです.年齢や家族構成,資産や収入,プランとゴール,性格やライフスタイル,許容できるリスクなどから,最適な分散方法を導きます.
冒頭に示した通り,私は全ての人が運用を考えるべきというポジションです.「数百万未満であれば,運用するのは時間のムダ」という言葉をよく聞きますが,例え少額でも,金融市場に手触り感を持っておくことは,意味のある行為だと思います.但し,ゴール設定もなく漠然と,「なんとなく増やしたい」というやり方は避けたいところです.
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