リトル・ブラザー - 情報社会と監視社会の意味を再考させられるサイエンス・フィクション [book]
高校生ハッカーの主人公 - Linux をインストールした Xbox を踏み台に傍受をかいくぐり,テレビとラジオと新聞からしか情報を得ない両親を持ち,普通の高校生と同じように恋に焦がれる - が,無実の罪を着せられ,ネットで仲間を集い,国家権力を相手に復讐をするという,とても分かりやすいストーリー.
著者のコリイ・ドクトロウは,人気ブログ Boing Boing の共同編集者としても知られる.そんな Web・テクノロジーに精通した作家が執筆しただけあり,本書に登場する技術やちょっとした小話は,どれも気がきいています.
それに伴い,例えば,今日では広く普及している公開鍵暗号方式の説明に丸々5ページ費やしたかと思うと,その直後に高校生の甘酸っぱくナイーブな海辺のパーティーの描写が続く - 但しそれは互いの公開鍵を交換する為の鍵署名パーティーである…みたいな,独特の展開を見せます.
単なるフィクションとしても,その痛快なストーリーは読みごたえがあるし,インターネットやテクノロジーが好きな方は特に共感する部分が多いでしょう.
もしもきみがまだコンピューターのプログラムをつくったことがないなら、ぜひ一度つくってみるといい。他に類を見ない体験だからだ。
(中略)
掛け値なしに感動的な体験になるはずだ。感動で胸がいっぱいになるはずだ。
-- 主人公の言葉 (本文より)
さらに特筆すべきは,空想の出来事を描いた SF でありながら,すぐ隣りで起きているかのような現実感が,本書全体に漂っていることです.いや,様々な監視や傍受など,それらの多くは実際に行われているのでしょう.
例えば昨今話題にあがることの多いプライバシー問題について.
東京から名古屋まで高速道路を使うと,通常料金は7100円.ETC を使えば最大半額まで割引され,随分お得ですよね.なぜ ETC を使った方が安くなるかについては,渋滞の解消,物流の効率化,人件費の削減,ETC の普及促進…などなど,いくつか理由が考えられますが,ETC を使うとあなたが高速道路を利用した日時が記録されるわけです.
つまりこうも考えられる.
あなたは,ETC を使うことによって,あなたのプライバシーを3550円で売ったのです.得られたプライバシーの対価として,高速料金は安くなったのです.むしろそちらを基準とするなら,匿名で東京・名古屋間の高速道路を利用するには,最大3550円の追加料金が発生するのです.ところで,こうしてあなたが切り売りしているプライバシーは,値段相応ですか?
あなたのプライバシーはあなた以外の誰か (多くの場合は買い手側) に勝手に値付けされ (多くの場合はゼロ円),あなたが知らないうちに取引されているのです.
…みたいなことを考えさせられる1冊でした.
わたしは本書を、情報社会の意味についての議論の一助となることを願って執筆した。
情報社会とは完全な管理社会なのだろうか、それとも先例のない自由な社会なのだろうか?
情報社会は、たんなる概念ではなく、わたしたちが生きなければならない現実なのだ。
-- コリイ・ドクトロウ (序文より)
リトル・ブラザー コリイ・ドクトロウ |
2 コメント:
ビッグブラザーをリスペクトしてるってことかね
でしょうね。
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