「給料ゼロでタダ働きしてくれ」
そう言われたら,まっぴらごめんだと思うかもしれませんが,あなたはそれをやっている可能性が高い.
「子供にお金を残してあげたい…」
それは同じ忙しい毎日を送る,言い訳でしょ? あなたの子供は,残してくれるお金が少し減っても,父ちゃん (母ちゃん) と一緒に過ごす時間が増えた方が嬉しいかもよ? 小さい頃に,忘れられないような旅行でも家族でする方が,将来の財産になるかもよ?
お金を稼ぐ・増やすという内容を説く書籍が多い昨今,「人生が豊かになりすぎる究極のルール」という副題を持つ本書は,お金の使い方を紐解きます.個人的には,人間のセンスと品格が問われるのは,お金の稼ぎ方や増やし方より,使い方だと思っています.
架空の45歳の独身女性,エリザベスを例にする.
年収は600万円,所得税や社会保険料などを差し引いた可処分所得は489万円.週平均50時間働く彼女の正味の時給は1956円だ.30代前半に購入したマイホームの住宅ローンは完済し,この家は売れば4500万円になる.昨年は例年並みの329万円を使った (160万円を貯蓄できた).
この条件で計算すると,エリザベスは65歳で定年退職した場合,退職時の資産は約7700万円.退職後の生活費を年間320万円 (実際には高齢になるほど少なくなる) と仮定すると彼女は24年弱生活できる.だがエリザベスが85歳のときに亡くなったとすると,1300万円の資産を使わないことになる.
このとき,エリザベスは約1300万円分の経験を逃してしまったことになる.それ自体が残念なことだが,それだけではない.そう,エリザベスは生きているうちに使い切れない金を稼ぐために,2年半タダ働きしたのと同じだ.人生の貴重な時間とエネルギーを,もっと他のことに使えたかもしれないのに.
だからエリザベスの例より収入が高い人にとっても,低い人にとっても,私からのメッセージは同じだ.生きているうちに金を使い切ること,つまり「ゼロで死ぬ」を目指してほしい.そうしないと,人生の限りある時間とエネルギーを無駄にしてしまう.
これは,「お金を残して死ぬことは,タダ働きをしたことになるだけでなく,できていたはずの体験を逃した」ということを,非常に論理的に説明した,本書で紹介されているエピソード (を簡略化したもの) です.
金融投資をされている方は,「配当」や「複利」がいかに強力かをご存知でしょう.時間と体験に対する投資にも,同等の法則が成り立ちます.例えば若い頃にバックパックで外国を訪れた旅は,それを思い出す度にニヤニヤし,その後の人生の糧になるでしょう.
著者の,"Each version of you dies everyday" という言葉が,心に響いています.私の娘は今年で20歳になりますが,彼女が幼い頃,一緒に子供向けの映画を観に行ったような体験は,もうできないのです.つまり,「娘と子供向けの映画を一緒に観た私」は,既に死んでいるのです.
「お金」を「意味のある体験」に変換する能力は,年齢を重ねるごとに弱体化していきます.90歳から水上スキーをはじめることはできません.体験は,早くすればするほど,残りの人生を豊かにします.「今日のバージョンの自分は毎日死んでいく」という考えを胸に,お金を意味のある体験に変換していこうと思います.
さて資産はいつ取り崩しはじめるべきなのか.著者は,それは45歳から60歳の間,と主張します.具体的な説明や試算方法は本書に譲りますが,ここで忘れてはならないことがあります.
資産のピークがいつかを決めるのは,数字ではなく,健康状態 (生物学的年齢) である,ということです.即ち,健康であればあるほど,実質的な金持ちである,ということです.
どんなにお金があっても,健康を買うことはできません.健康でなければ,どんなにお金があっても,それを最大化することはできません.理論上,「お金」は増やすことができる資産ですが,「時間」や「健康」は増やすことができない資産…ということを考えれば,どちらが価値が高いかは自明です.
死後にもらうと,うれしさ半減,価値は激減
冒頭の発言で誤解を招くといけないので補足しておきますが,著者は,「子供にお金を残さず,生きているうちに全部使ってしまおう」と言っているわけではありません.あくまで子供に与えるべきお金を取り分けた後の,残りを生きているうちに使い切るべきだと主張しています.但し,「あなたが85歳,子供が60歳」の時に相続するのではなく,子供が若いうち,具体的には子供が26歳から35歳の間に,お金を渡すのが最善と説いています.私としては,子供には体験や教育には惜しみなくお金を使い,残すお金はゼロで良いと考えています.
お金の心配があるかもしれません.でも,ゴキゲンな人生を送れない心配にも,真摯に向き合うべきではないでしょうか.同じ毎日の自動運転モードから抜け出し,一度きりの人生で本当に何がしたいのかを考えてみるべきです.
いつかお金がたまったら…?
いつか時間ができたら…?
いつかリタイアしたら…?
いや,物事を決めるタイミングには,「たった今」か「永久に後」の2つしかないのです.
死ぬ時に思い出すのは,大好きな人と一緒に過ごした思い出であり,銀行残高ではないはずです.人生の価値とは,お金ではなく,お金を使って得られる体験価値なのです.
今それをしないリスクを考えてみよう.一緒に経験したい誰かの顔を思い浮かべてみよう.先延ばしにせず,今その経験をすることで,どれだけこの先の人生で「思い出の配当」が得られるかを想像してみよう.
「45歳から60歳」が資産を取り崩しはじめるゴールデン・エイジなのであれば,今年48歳になる自分に向けて,そして同世代の仲間に向けて,心をこめて書いてみました.
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