プロダクトを作り,それを世にリリースし,さらにスケールさせる.一言で言うと,そんな仕事をしています.もともとエンジニアあがりの私は,「おもしろいモノを作ればよいのだ」「チマチマ金の計算なんかしてられるか」と考える傾向があったかもしれません.ですが,プロダクトを提案する段階で,やはりそれがもたらすビジネスインパクトの見積もりは必須となります.
ビジネスセンスを磨く練習として,レストランの待ち時間にその店の収益を予想してみようと思い,調べた内容,及び実践した内容を紹介します.
まずは公式のおさらい.
売上 = 変動費 + 粗利
粗利 = 固定費 + 利益
固定費 = 人件費 + その他固定費 (人件費以外の固定費)
変動費は,売上に連動する費用.食材原価や水道光熱費などです.
固定費は,売上に関わらず固定でかかる費用.人件費や家賃などです.
各項目の相関関係は,ちょうどこの図が分かりやすいでしょうか.
出典: 何が“付加価値”なのかを簡単に見抜ける計数感覚 - ダイヤモンド・オンライン
厳密にはこの図の通り,売上 = 変動費 + 限界利益で,粗利は売上から原価のみを引いたものです.ただここでは人件費を固定としていることと,そもそも目的は会計項目を学ぶことではなくレストランの収益を予想するエクササイズなので,限界利益と粗利はほぼイコールとしています.同様に,在庫,売掛金,買掛金,減価償却費などもここでは無視します.
では実際に,レストランでの待ち時間の過ごし方です.店は会社の近くの,とあるレストラン.コーヒー1杯700円の小洒落た店です.単位は全て千円で揃えます.
(1) メニューに目を通し,価格を把握する
→ 客単価は3000円と判断
(2) 席数を数える
4人掛けのテーブルが,3列に渡り4つ並んでいる
→ 約50席
(3) 1日の集客を見積もる
ピーク時の客の埋まり具合から,1日を通して満席状態で何回転するか予想する.もう少し手っ取り早く計算するなら,夜8時の客の1.5倍が1日の集客数とする (夕食だけオープンしている店の場合).
→ この店の場合,1日の集客数は150人と仮定
ここまでで,売上が分かる.
→ 月間売上は,3千円 * 150人 * 25稼働日 = 11,250千円
(4) 粗利率から (あるいは原価率から) 粗利を求める
変動費は原価 (材料) が大部分を占め,飲食業の原価率は30%前後と言われている.但し,この店は原価率が高め (材料に良いものを使っている) と判断し,変動費は売上の45% (粗利率55%) とする.
ちなみに,一般的な粗利率は以下の通り.
飲食業: 65%-75%
卸売業: 10%-20%
小売業: 20%-40%
製造業・建設業: 40%-60%
サービス業: 75%-90%
これは,業態によって大きく変わることに注意.例えば同じ小売業でも,ディスカウントストアやコンビニのように,単に商品を右から左へ流す業態に対して,カーディーラーなどは粗利率が高くなる.サービス業は,コンサルタントや税理士のような専門職は高くなる…など.
ここでの例では,
→ 11,250千円 (売上) * 55% (粗利率) = 6,190千円 (粗利)
(5) スタッフの人数を数える
ウェイター・ウェイトレスだけではなく,厨房の中の人も加えること.厨房の中が見えなければ,メニューと集客数から予想する.アルバイトは0.5人として計算.アルバイトか社員かは,ネームプレートの色や仕事のさばき方などから判断する.
→ 8名
(6) 人件費を計算する
トイレなどに求人のチラシが貼ってあれば,そこに書いてある給料・バイト代から,なければ店のクオリティや接客から,人件費を計算.手っ取り早く計算するなら,社員1人1日1万とする.
→ 8名 * 1万 * 25稼働日 = 200万
→ 労働分配率は,2,000千円 / 6,190千円 = 32.3%
(7) 固定費を計算する
固定費 = 人件費 + その他固定費なので,その他固定費が分かれば全体の固定費が出る.その他固定費の目安は,人件費と同額.人のクオリティがサービスに直結する業態 (ジムのインストラクターや塾の講師など),あるいは人手がかかっていそうな場合は人件費を多めに,設備や広告宣伝費がかかっていそうな場合はその他の固定費を多めにする.
→ ここは家賃が高そうなので,その他固定費は人件費の150%として,300万と見積もる
→ 固定費全体は500万
ちなみに家賃は,1坪あたりの相場から試算するのが適当だが,手っ取り早く計算するには「売上の3日分」とする.
(8) 利益を計算する
6,190千円 (粗利) - 5,000千円 (固定費) = 1,190千円
→ 売上に対する利益は,1,190千円 / 11,250千円 = 10.6%
一般的に,この利益率が10%を越えると優良企業と判断される.30%を越えるようであれば,なにか見落としているか計算が間違っていると考えるべき.
(9) 初期投資額と返済期間を考えてみる
一般的に,飲食店の初期投資額は,3000万-5000万と言われている.
→ 内装などから,高めに5000万と仮定
利益を全て借金返済にあてると,
50,000千円 / 14,280千円 (年間利益) = 3.5年
→ 初期投資は,3年半で回収できる (その後,本当に儲けが出る)
移り変わりが激しい今の時代,初期投資の回収は3年が目標.それぐらいで借金を返済し,以降の利益は,次の変化に対応する為の投資にあてるべきと言われている.
(10) 以上の分析から,自分がこの店のオーナーだったら,どう改善するかを考えてみる
既に健全な収益モデルでまわっていると思われ,スタッフの接客や服装,内装などに大きな改善ポイントは見当たらない.雰囲気が良い店なので,その点で他の店と差別化ができており,あとはこの集客数をキープできるかがポイントと思われる.
集客という観点では,レストランでも,私が手がけるプロダクトでも,
- どうやって新規顧客を呼び込むか
- どうやって既存顧客にリピートしてもらうか
の2点が重要課題になります.
なので,例えばですが…
ランチはオフィス勤めの人をターゲットに,比較的リーズナブルな値段で良いメニューを揃え (原価率は50%-60%まで引き上げる),「週に1度はあそこで食べよう」というモデルを定着させる.逆に夜は,お酒を中心としたバーのような業態に変え (原価率を20%まで落とす),昼につかんだ顧客が会社帰りにゆっくりくつろげる空間を提供する.
…みたいな実験をして,どのような結果と発見が得られるかを,試してみたい気がします.
こうして見ると,「行列のできるラーメン屋は実際どれぐらい儲かっているのか」「職人が握る鮨屋と回転寿司では,収益モデルにどのような差があるのか」など,いろいろ考えてみたくなります.
実際のこの店の収益は,上記と大きくかけ離れているかもしれません.ただこうした数字を読む力が役に立つ場面は多いでしょうし,そこから自分なりの改善点を考えることは新たな視点をもたらしてくれます.待ち時間の潰し方としては,オススメかもしれません.
0 件のコメント:
コメントを投稿