ふと,「極上のフィクションが読みたい」と思い,宮部みゆきの「火車」を読みました.1992年発行の割と昔の作品ですが,ミステリー小説のランキングや特集などでは必ず登場していて,なんとなく気になっていた小説の1つでした.
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ネタバレは控え,ここでは一番心に残った台詞の紹介に留めておきます.
「あのね、蛇が脱皮するの、どうしてだか知ってます?」
「脱皮っていうのは――」
「皮を脱いでいくでしょ?あれ、命懸けなんですってね。すごいエネルギーが要るんでしょう。それでも、そんなことやってる。どうしてだかわかります?」
本間よりも先に、保が答えた。
「成長するためじゃないですか」
富美恵は笑った。
「いいえ、一生懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、いつかは足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね」
べつにいいじゃないのね、足なんか生えてこなくても。蛇なんだからさ。立派に蛇なんだから。富美恵は呟いた。
「だけど、蛇は思ってるの。足があるほうがいい。足があるほうが幸せだって。
…
この世の中には、足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、脱皮の仕方を知らない蛇は、いっぱいいるわけよ。そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいるというわけ。そして、借金してもその鏡がほしいと思う蛇もいるんですよ。」
火車 (新潮文庫) 宮部 みゆき |
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