Grateful Dead.日本ではあまり馴染み深くありませんが,アメリカを代表する伝説的バンドであり,とにかく最高のバンドです.
大事な事なのでもう1度言います.
とにかく最高のバンドです.
まあ,音楽の好みは人それぞれでしょうが,少なくとも「偉大なバンド」であることに異論を唱える人はいないでしょう.商業的にはビートルズやローリング・ストーンズより成功したアメリカ随一のジャム・バンド,と言えば凄さの一端が伝わるでしょうか.1960年代のヒッピーカルチャーを代表するバンドであり,スティーブ・ジョブズやビル・クリントンにも影響を与えました.
ライブは録音 OK!音楽は無料で聴き放題。それなのに年間5000万ドルも稼ぐ。40年前からフリーもシェアも実践するヒッピーバンド、それが、グレイトフル・デッド。
-- 裏表紙のキャッチコピーより
そんな Grateful Dead とマーケティング...!?
なるほど,そう来たか!
あまりにかけ離れた (と思っていた) 両者なので,考えたこともありませんでしたが,Grateful Dead のやり方,考え方,スタンス,ポリシー,総じて言うなれば「アティテュード」は,インターネット時代におけるマーケティングに実にマッチします.
いやインターネット時代における,というのは正確ではなく,ヒットの根本は昔から変わっていないのでしょう.インターネットの発達によってそれが可視化され,実践が容易になったということかもしれません.
Grateful Dead は,「フリーミアム」「シェア」「コミュニティの創造」といった,近年のソーシャルメディアを活用した最先端のマーケティングの多くを,1960年代から体現していました.
例えば以下は,実際に Grateful Dead が行っていたことであり,また今日成功している企業やサービスの特徴とも言えます.
- 従来の業界の思い込みを見直す
- 消費者をエバンジェリストにする
- 消費者に直接販売する
- たくさんの熱心なファンを作る
余談になりますが,コミュニティと言えば,Grateful Dead のツアーは,バンドやスタッフに加えて「デッドヘッズ」と呼ばれる熱狂的な追っかけファン,物売りの商人などが一緒に巡り,さながら移動する町のようだったと言われます.その一員だったバンドの専属料理人は,その後「市内のどのレストランよりも美味くてヘルシーな料理がタダで食べられる」ことで知られる,Google 本社の社員食堂のシェフだったことも,有名な話です (創業者のセルゲイ・ブリンから直接招かれ,Google 56番目の社員として世界初のストップオプション付き上級シェフとなり,現在は独立).
本書は,そんな Grateful Dead の「アティテュード」から,マーケティングレッスンを導く試みをしています.
以下に目次を列挙しますが,タイトルを見るだけでピンときて,ニヤリとしてしまうはず.
(PART ONE: THE BAND)
1: ユニークなビジネスモデルをつくろう
2: 忘れられない名前をつけよう
3: バラエティに富んだチームを作ろう
4: ありのままの自分でいよう
5: 「実験」を繰り返す
6: 新しい技術を取り入れよう
7: 新しいカテゴリーを作ってしまおう
(PART TWO: THE FANS)
8: 変わり者でいいじゃないか
9: ファンを「冒険の旅」に連れ出そう
10: 最前列の席はファンにあげよう
11: ファンを増やそう
(PART THREE: THE BUSINESS)
12: 中間業者を排除しよう
13: コンテンツを無料で提供しよう
14: 広まりやすくしよう
15: フリーから有料のプレミアムへアップグレードしてもらおう
16: ブランドの管理をゆるくしよう
17: 起業家と手を組もう
18: 社会に恩返しをしよう
19: 自分が本当に好きなことをやろう
1つの章で扱うテーマを1つに絞り,各章は
- バンドにまつわるエピソード
- Lesson (そこから学ぶべき戦略)
- Case (その戦略を駆使している企業の事例)
- Action (取るべき行動)
という構成で,1つ1つが短くて読みやすい.
Grateful Dead が好きならエピソード部分はツボにはまり,Lesson/Case/Action を拾い読めば立派なビジネス書となっています.
本書,そして Grateful Dead は,コミュニティの重要性を,改めて説いてくれました.TED の本質が「凄いプレゼン」ではなくそのコミュニティであるように,Grateful Dead も,音楽はもとより,「場所」を提供したバンドでした.
本書,そして Grateful Dead は,「悪人にならなくても儲けられる」ことを教えてくれました.ビジネスとか金儲けというと,裏で悪いことをやっている…みたいなイメージがどうしてもある中で,仲間とコミュニティを何よりも大切にする,always happy で always smiling なこのバンドが,これだけ稼いだのです.
本書,そして Grateful Dead は,「マーケティングから新しいものは生まれない」という誤解を解いてくれました.単に消費者行動の後追いだと思っていたマーケティングについて,ユーザー体験を軸に市場を創造することこそマーケティングであると,気付かせてくれました.
本書,そして Grateful Dead は,理論や方法論を頭に詰め込むことは無意味であり,ただ快楽原則に則って,気持ちいい方向に流れていけばいいんだと,背中を押してくれました.
なにより,本書,そして Grateful Dead は,家族や友達と明るく楽しむことは,絶対的な正義であると,優しく語りかけてくれます.
素晴らしい良書でした.
ビジネスという枠を越えて,生きる上で大切なことが散りばめられていると感じます.
日本で著作権法改正の風が吹く今だからこそ,Grateful Dead のことが好きな人にも,Grateful Dead のことを知らない人にも,全ての人にお勧めしたい1冊です.
グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ デイヴィッド・ミーアマン・スコット ブライアン・ハリガン 糸井重里 |
さて,最後に少し本からは脱線しますが…
1995年,Grateful Dead のリーダー,ジェリー・ガルシアの訃報が流れた時,19歳の私はアメリカに住んでいました.私自身もショックでしたが,とにかくまわりの大人たちの落胆ぶりが強く印象に残っています.
もちろん世界中に影響を与えた人物ではありますが,特にアメリカにおいてジェリー・ガルシアは,あの明るく楽観的な国民性の象徴だったように思います.様々なブームやトレンドが流行り廃れていく中で,何一つ飾らないスタイルを貫き通し,愛と平和を唱える快楽主義者からは模範とされ,その逆の,規律を重んじる厳格な人からはどこか羨ましがられるような,誰であってもその存在を無視できない,アメリカの1つのロールモデルだったと言えるのではないでしょうか.
もう1度繰り返しますが,本書,そして Grateful Dead は,家族や友達と明るく楽しむことは,絶対的な正義であると,優しく語りかけてくれます.
うん,楽しもうじゃないか.
ほらジェリーが言ってるよ.
グレイトフル・デッドのライブは、なんと言うか、まぁ…単なるコンサート以上のものだった。日常とは異なる特別な「ハプニング」であり、冒険の旅の「目的地」であり、最もダイハードなファンにとっては「人生」そのものだった。
-- 序文「グレイトフル・デッドのライブほど素晴らしいものはない」より
TBS RADIO 954 kHz │ 2011年12月16日(糸井重里)「The Point of View」 - 柳瀬博一・Terminal
Don't worry, be Hippie ! - 滝沢哲夫 (グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ:勝手に副読本)
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