Zappos (ザッポス) という企業をご存知でしょうか.
端的に言うと「オンライン靴屋」です.
しかしこの企業は靴屋としてではなく,世界最高の顧客体験を提供する企業として名を馳せています.CEO のトニー・シェイの言葉を借りれば,Zappos は "Happiness" を提供する企業で,ついでに靴も売っている.
Zappos は2009年に Amazon に買収されました (12億ドルという巨額に加え,Zappos は社名や本拠地もそのままで独立企業として運営を続けられるという条件などから,「Amazon 側が屈した」との見方が多勢).この買収の目的は「Zappos の企業文化を Amazon に取り込む為」と言われています.一般的に企業が企業を買収するのは,技術や特許,抱えているユーザーやマーケット,人材などが目的のケースが多いでしょう.Amazon は別に,Amazon store の靴のラインナップを増やしたかったわけではなく,この世界最高の顧客体験を創出する企業文化を取り入れたかったのです.
最近では,この Zappos のサーバーが不正侵入されて顧客情報が漏洩するという事件は記憶に新しいところですが,それについての Zappos の対応は,こちらの記事で的確に分析されています.
企業法務マンサバイバル : ザッポスは個人情報漏洩という非常事態での顧客対応もイノベーティブだった
サービス業に携わる方に限らず,自分以外の誰かに何かを提供する職業の方 (つまり私達のほとんど全て) は,こちらの本,特に「ザッポスの奇跡」を一度読まれることをお勧めします.
ザッポスの奇跡(改訂版)~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~ 石塚 しのぶ 廣済堂出版 2010-12-21 |
顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか トニー・シェイ 本荘 修二 監訳/豊田 早苗 訳/本荘 修二 訳 ダイヤモンド社 2010-12-03 |
これらの本で語られている驚きの顧客対応について,時折「日本では文化や流通事情が違うから参考にならない」のような書評を目にしますが,ポイントはそこじゃない.Zappos を真似ても意味がないのです.参考にできる点があるとするなら,下流の事例ではなく,その元となっている上流の考え方ではないでしょうか.
具体的に言うと,Zappos のカスタマーサービスには,マニュアルが存在しません.スタッフは,顧客が商品を買う際に,どのように感じてもらいたいかを議論・共有し,具体的にどのような対応でその体験を届けるかはスタッフ一人一人のその場の判断に委ねられています.ちなみにこれは,超一流ホテルなどでも同じだそうです.
つまり,Zappos から学べることがあるとすると:
- 提供したい価値が何かという概念,大袈裟に言うと哲学,を突き詰めること,
- 相手に対する主体的な思いやりを持ち,それを実装にまで落とし込むこと,
だと思うのです.
なぜこんなことを書いているかと言うと,先日同僚が「『おもてなし』というのは,期待していることを期待以上にしてもらえた時ではなく,予想していなかったことをしてもらえた時に感じるものだ」と話していたのが頭に残っていて,それについて今日ボンヤリと考えていたからです.
ブログにも以前書きましたが,そう言えば去年泊まったあるホテルでのこと.朝食の時間よりも早い,早朝にホテルを出発しなければいけなかったのですが,チェックアウトの際にわざわざお弁当を用意してくれていた時には,心底感動しました.
しかし,いくら客が予想していないことをするといっても,意表を突いて奇抜なことをするのは本末転倒.
そんなことを考えている中,Zappos のことを思い出し,概念,哲学,ポリシー,ビジョン…まあ言葉は何でも良いけど,要は「本質的に提供したい感情と体験」を起点として,そこから具体的な施策に落とし込んでいくというアプローチは,確かに腑に落ちるなぁと.
もちろんマニュアルやガイドラインをもって,徹底的に効率化・プロセス化するべきところもある.むしろ企業においてはそちらの方が大部分だったりする.では効率化するべきところと,そうではないところの線引きは? あるいは後者についてそれでも効率化を唱えてくる,手段と目的を履き違えた杓子定規なステークホルダーの対処方法は? …みたいなこと自体もマニュアル化できなかったりするのですが.
「おもてなし」とは、「表なし」
返信削除つまり、横から後ろから飛び出してくるものだ。
・・・と料理の鉄人森本正治さんが言ってましたよ。
http://v.youku.com/v_show/id_XMjY0NjIwNDUy.html
なんという至言!
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