2008年5月17日土曜日

ネット対応テレビと CGM 動画が紡ぐ未来とは - ネットと家電のキャズムを超えろ! 第2回 [ce]

昨日,このイベント の第2回目に参加してきた.

ニコニコ×VIERA!? キャズム会議 第2回 『ネット対応テレビとCGM動画が紡ぐ未来とは』 - キャズムを超えろ!

今回は「ネット対応テレビと CGM 動画が紡ぐ未来とは」というテーマで,ゲストは YouTube 対応 VIERA の仕掛け人である松下電器の池田さんと,ニコニコ動画の広告ビジネス担当であるドワンゴの岡村さん.


この日,2人のゲストの一番印象に残った発言をそれぞれ挙げると,池田さんはこの言葉.

VIERA CAST は「まずは1年市場で実験をしてみよう」という試み

「実験」というのは素晴らしい言葉だ.本人は何気なく言ったのだろうが,これは名言だと思う.まだ保守的な家電業界の中で,「市場を使って実験をする」という発言は,イノベーティブな発想をしていなければ出てこない.

岡村さんはこれ.

ニコニコ動画は不完全なものを流すというコンセプト.
それに対してユーザーが答える.
ユーザーが手を加えることによって完成形をみんなで作っていく.

ここまで中毒性を持つこのサービスの本質を突いた発言だと思う.「とことん評価を追い込み,出来物を提供する家電」に対するヒントが隠されているかもしれない.

銀座の居酒屋を貸し切っての懇親会にも参加させて頂いたが,私のテーブルはたまたま (…でもないか,この会なら) メーカーの方ばかりだった.やはり同業者だけあって話が「ツー・カー」で通じたり,名刺交換の瞬間に「あ"…ご迷惑をおかけしております」という会話を横目で見て爆笑したりと,非常に楽しい時間を過ごすことができた.同じ業界で,会社は違えど同様の問題意識を持っている人から,全然違うアングルで物事を見ている人まで,とても刺激的だった.

この業界で同業他社同士が,これほどゆるーい雰囲気で触れ合う機会はこれまでなかったように思う.おそらく家電業界の歴史の中でも無かったのではないだろうか.

ちょうど参加されていた ワークスタイル・メモ 等を執筆するアルファブロガーの徳力さんが,「Web の世界の3年前ぐらいがこんな (現場の人が組織を越えてコミュニケーションを取りはじめる) 雰囲気だった」と言っていたが,このような機会を軸にこの業界もどんどん盛り上げて行きたい.


以下,当日の内容.
(ゲストの方々の発言はすべて個人的なものであり,会社を代表してのコメントではありません)



最初に和蓮さんから前提の整理.

今日のコンセプト
- 面白いものを触って・知って・咀嚼する場
- 面白い人とコミュニケーションする場
- で,何かが生まれ出る種としたい

キーワード
- ネット x 家電が面白そう
- 作った「人」が見える家電やネットサービスっていいよね
- 現状と可能性
- 会社を越えたコミュニケーション
- ネガティブは何も生まない

従来型メジャーコンテンツ動画配信
- Apple TV (Apple)
 - iTunes Store からビデオをダウンロード購入できる
- デジタルテレビ
 - アクトビラビデオ (VIERA, BRAVIA, AQUOS 等)
- NT1 (SONY の STB)
 - GyaO NEXT,G クラスター,アクトビラビデオも可
- ひかり TV
 - 地上波デジタル放送 IP 再送信 (専用 STB)
- GyaO NEXT
 - 専用 STB で GyaO を視聴
- 各種光ケーブルテレビ
 - Yahoo! BB 光 TV,eo 光テレビ,4th media など多数

動画 UGC (user generated contents) 配信
- Apple TV
 - YouTube が見られる
- NT1 (SONY)
 - EyeVio が見られる…けど,ユーザー投稿コンテンツは見られないらしい
 - 北米版は Groova の UGC が見られる
- デジタルテレビ
 - YouTube (北米 VIERA CAST)

- 番外編: ロケフリ (SONY),Slingbox (Sling Media)
 - 外出先から見られる

→ 国内で UGC を見られるのは Apple TV のみ?

今日の肴
- UGC ってそもそもテレビで見るもの?
 - エロフィルター? リーンフォワード & リーンバックワード
 - ユーザー層は?
- 技術的にはどうなの?
 - 今のハードでどれぐらい出来るか
 - FLV? H.264? ブラウザ?
- ビジネス的にはどうなの?
 - 広告の話とか
- TV 受像機 / UGC 連携の何か面白い案はないか?


次に,和蓮さんが途中適宜ツッコミを入れつつの,各ゲストからのプレゼン.

【松下電器・池田さん (VIERA CAST 紹介)】

今年の CES で発表された VIERA CAST (YouTube の動画や Picasa の写真などが見れる機能) の説明.もともとは「海外でインターネット対応のテレビを作れ」と言われてそのやり方を考えたとのこと.機能の詳細はここでは割愛し,個人的に印象に残った点を紹介する.

- 個々のアプリケーションに行く前のメニュー画面ではテレビの音が出ている
 → インターネットのボタンを押すと急に静かになるのはやめたかった

- 画面が上がってくる速度
 → 時間がかかるのは好ましくない
 → ブラウザを使わない実装

- UI はネットから来ている
 → そもそも家電のカルチャーではなかったり,機能が先のばしになるという苦労もある

- UI は「家電メーカーが作りそうにないもの」というイメージで作った
 → デザインはアメリカ,実装は日本

- YouTube はフェイバリットから始まる
 → アカウントは YouTube のものを共有

- Apple TV と同じ H.264 で出している (PC では FLV)
 → Apple に出しているものと同じフィードを食っている

- オンスクリーンキーボードでサーチ
 → インクリメンタルサーチ
 → 文字入力 UI は課題

- アーキテクチャは UniPhier
 → アーキテクチャは変えていない (追加のハードウェアなし)

- 池田さんの (あくまで個人的な) 発想
 - (アナログ停波 + HD 化) x (大画面 + フラット)
  → テレビの大きな買い替え需要
 - 「送り手」-「受け手」1対N の放送型だけではもったいなくないか
  → N対N (1対1) = 共通 + 自由度
 - N対N (1対1) で狙うのは「楽しい」x「便利」x「得する」x「仲間」
  → 毎日見る
 - まずは,従来の放送では見られない動画を見られるようにしてみよう
  → UGC, Minor / Ethnic (Long Tail)
  → YouTube
 - チャレンジ
  - 「送り手」と「受け手」の双方で,N対N から 1対1 を見つける手法
   → UI・検索・プロファイル DB など
  - サービス側から見ての TV の仕様
   → 進化,違い,への対応
  - コンサバ心
   →「テレビでは,まずい…」
   →規制 (最近の携帯とか)

- 本当におもしろいかどうか分からないし,コンテンツ事業に参入する気もない
- ただ,「まずは1年市場で実験をしてみよう」という試み

- Q&A
 Q) だらだら見ることをどう実現している?
 A) YouTube の中では連続再生モードとか,フェイバリット対応とか,関連動画とか.ただ YouTube とその外との連携については未だ解がない.アプリ側が作るのかメーカー側が作るのか,どこまで踏み込むのか (ユーザーデーター収集とか) など.


【ドワンゴ・岡村さん (ニコニコ動画紹介)】

ニコニコ動画は動画上にユーザーがコメントを入れられるサービス…ってもはや説明の必要は無いだろうが.2ちゃんねる管理人のひろゆき氏監修だったり,YouTube からアクセス拒否を受けたりと,話題には事欠かない.

興味深かったのは「広告主はニコニコ動画専用のバナーを作ってくる」という話.つまり,広告主が同じであれば,例えば mixi にも GREE にも同じバナーが出るが,ニコニコ動画に出す時には,その世界観にマッチしたものを誂えてくるらしい (とある業者は,バナーをニコニコ動画用に萌え系に変更したらクリック率が4倍になったとか).

- 非同期コミュニケーション
 → さも同じタイミングで動画を見ているように感じられる

- 現状ユーザー数700万 (有料会員20万弱,モバイル会員150万)
 → デイリーで1万人以上の新規ユーザー

- 最初は8割男性,今は女性が3割強

- 1日6500万 PV,訪問者数 180万人 (ユニーク)

- ユーザーの平均利用時間は YouTube の3倍

- ビジネスモデル
 - プレミアム会員収入
  → 19万3千人
 - 広告収入
  → 3千2百万円 (単月)
 - アフィリエイト
  → 2億8千6百万円 (売り上げ)

- コメントすらコンテンツの1部

- ニコニコ動画の多面的展開
 - ニコニコ市場
  → 購買行動が1つのエンターテイメント
 - 電光掲示板
 - ニコ割
 - ニコニコ映画祭
 - エアーマンが倒せない
 - ランティス組曲
 …などなど

- パートナー企業との提携を推進
 - 公式動画コーナー (公式カテゴリ)
 - お祭り (コンテスト) 展開

- 権利関連
 - 監視・削除体制の強化
 - 権利侵害対応プログラムの強化
 - 啓蒙活動の強化

- JASRAC との管理楽曲の利用許諾における契約締結
- 動画削除,コメント削除対応

- クリエイティブによる影響
 - ユニークネスの確立
 - 変わった世界観
 - 萌え系広告

- 時報広告


最後に,フリーディスカッション・Q&A.

(和蓮) UGC をテレビで見たいと思う人は?
→ 会場の 1/3 ぐらいが挙手

(和蓮) ニコニコをテレビで見るとしたらコンテンツは?

(岡村)
リーンバックワードで見るようなコンテンツは思いつかない.チャンネルという概念を持つ…のかな?

テレビにコメントがないのは逆に違和感を感じるというユーザーまでいる.


(和蓮) YouTube の機能を実装した時は何を見せようと?

(池田)
メーカーとしてあまり見識はないし,Apple TV だってバカ売れしていない.

(和蓮)
友達が来た時に見せるとか?
大学生の人が家に置いているような小さいテレビで見られると違うのかも.

(池田)
実験で良い結果が出れば…
いずれにしても時間の問題だと思う.


(和蓮) UI として,ニコニコ x VIERA って技術的にはできるのか?

(池田)
デコードできるフォーマットがクリアされれば.

(和蓮)
字幕は?

(池田)
分からないがきっとできる.但し,ながらで見るようにするとニコニコのおもしろさが欠如してしまうかも.

(和蓮)
じゃあビジネス的には?

(岡村)
広告配信でメーカーとの利益分配 (複数メーカーだったらシェア率) とか.

(和蓮)
でもバナーをクリックしてその先に行けない.時報だけでは厳しいのでは?

(岡村)
スクリプトを入れればボタンでコメントが入れられる.情報を伝えることはできる.

(和蓮)
Ustream では「へぇー」ボタンのような,コメントがなくても盛り上がっているかどうか分かる仕組みがある.

(池田)
飛べたとしてもパソコン向けの広告をテレビで見せてもしょうがない (フルブラウザがあっても).テレビ用の広告を作るメリットがあるかどうか.

(和蓮)
それは,モバイルでいつか来た道と同じでは? 結局みんなモバイル用のコンテンツを作った.


(和蓮) YouTube ではトップページ動画をビジネスにしている (金を払ってトップページに動画を載せるというビジネスモデル).ニコニコではやらない?

(岡村)
やる気がない.おしつけてもスルーされるだけ.


(池田)
本質的に,UGC がテレビで見たいの? というところに行きつく.我々も YouTube が最終ゴールだとは思っていない.


(会場)
テレビにはプログラムが可能になるように作ってほしい.もっとテレビをインタラクティブに使いたい.携帯のアラーム機能レベルのもので良いので (時間帯によって自動選局するとか).

(和蓮)
そういえば最近デジタルフォトフレームなどが流行っているし.


(会場) リアルタイム (生放送) との組み合わせは? 歓声ボタンとか

(岡村)
お金にはなる.但し,サーバー負荷などの問題はある.

(会場)
市民記者の考え方を取り入れたい.


(会場)
リモコンにベストチャンネルボタン (視聴率が一番高い番組が選局される) がほしい.


(会場) サブスクリプションの考え方は?

(池田)
固いことを言うと,テレビはニュートラルの立場を取らなければいけない.YouTube の場合はたまたま選択肢がそれぐらいしかなかった.


2 コメント:

匿名 さんのコメント...

>> YouTube ではトップページ動画をビジネスにしている (金を払ってトップページに動画を載せるというビジネスモデル).

会場で聞いていて違和感を感じたのですが、YouTubeのトップのおすすめ動画のことを言っているのなら、あれは売り物ではないです。って、長谷川さんの発言ではなかったので、本来はここで長谷川さんに言うのは筋違いなのですが、ここに書かれているので念のため。
http://www.google.com/support/youtube/bin/answer.py?hl=jp&answer=55751

Toshiya Hasegawa さんのコメント...

ご指摘ありがとうございます.
私も裏の確認を取らずに載せてしまい申し訳ありませんでした.

で,結論としては上記紹介して頂いたリンク先の通り,YouTube のおすすめ動画は売り物ではないようですね.ただ,岡村さんが即答で「やる気はない.おしつける気はない」と言っていたことについては,ニコ動の1つのポリシーが垣間見れたのかなと思います.