2006年3月17日金曜日

テレビ x Web 2.0 = テレビ 2.0 それは未来予想図 [ce]

前回,テレビが迎える終焉...as we know it というエントリーを書いたが,ちょうどタイムリーなことに「楽しいTVの未来を考える研究会」が主催している「テレビとネットの近未来カンファレンス」というイベントを見つけたのでさっそく参加してみた.

今回 (第4回目) のテーマは「テレビ x Web 2.0 = テレビ 2.0 それは未来予想図」ということで,インターネットの世界で起きているイノベーションが絶対に家電にも到来すると信じている私にとっては,非常に興味をそそられるテーマである.

イベント概要は こちら を参照.

「『ここは書かないで』と言われたところ以外は内容を Blog に書いても良い」とのことだったので,簡単にレポートしてみたいと思う.



用意された会場は満席で,それでも座れない人が結構いたのでスタッフが慌てて椅子を用意していた.100人以上はいたと思う.内容は受信機側の話ではなく,主にコンテンツ・サービス側の話.21:30終了予定だったが,結局終わったのは22:00前ぐらいだった.

第1部 テレビとネットの最前線

メタキャスト の代表取締役,井上氏による「テレビのあのシーンをワンクリックで再生する全録画オンデマンドソフト」の発表.

テレビブログ の番組ログから見たいシーンを選んで再生することができるというもの.テレビブログの番組ログは,例えば こんな風 にその番組の内容が時間情報と共にインデックス化されている (なんと人が手で作成しているらしい!!) が,これをクリックするとそのシーンが再生できるというもの.

技術的には,最大3週間分の番組を8ch同時録画できるソニーの Xビデオステーション を使い番組を全部録りしておくことと,ソニーが2月末に仕様公開した TVTL という TV番組を表現できるファイル形式 (といっても中身はただの XML) で実現している.

もしこれが普及すれば,今後立ち上がってきそうなサービスとして,
「2ちゃんねる テレビ実況スレ TVTL 変換君」
「X ビデオステーションオーナーズ専用掲示板,チャット,ブログ」
「TVTL 地方対応 変換サービス」
「個人向け TVTL 作成 (カスタマイズ) 代行サービス」
などが想定されるのではないかとのこと.

但し,現状では1つの TVTL に複数の番組からのシーンを組み入れることは不可とのことだ.

個人的には神田氏の「人はいつでも見れると逆に見なくなるのではないか,どうやってフックをかけるかが重要だと思うんだけど」という指摘がとても鋭いように思えた.

結局いくら HDD の容量が増えてテレビ番組を大量に録り貯めることができても,人間の時間は1日24時間なわけで1日にテレビを見る時間が劇的に増える訳じゃない.だからそれ以外の枠の部分で,口コミや検索といった概念をどうやって持ち込むかがポイントということ.

ゲストのミニスピーチ

第1部と第2部の間に本日のゲストが紹介され,それぞれ15分ずつぐらいスピーチを行った.

1人は今月末に NHK で放映される これであなたもブログ通 という番組の制作プロデューサー山本氏,もう1人はデジタル放送専門のコンサル会社,プラットイーズ 役員の江口氏.

江口氏は20年以上テレビ業界で働いた経歴を持つそうだが,その彼が「変化を感じているのはここ1年ぐらい」と話していたのは印象的だった.またワンセグ放送については,放送局はあまり真剣に考えていないとのこと.曰くテレビ局は社員が少なくて給料が高いので,余計なことをしようとしないんだとか.但し,「携帯でカメラ付きが当たり前になったように,テレビ付き (ワンセグ受信) が当たり前になればビジネスとして発展する可能性はある」としていたし,「ウォークマンは音楽を持ち歩くことを当たり前にしたが,ワンセグ放送は番組を持ち歩くことを当たり前にするだろう」と話していた.

第2部 テレビとネットの最前線

「対決型プレゼン」という名目で,神田氏とメタキャストの橋本氏がそれぞれ「TV 2.0」についての展望をプレゼンし,その後井上氏,ゲストの山本氏と江口氏を交えてディスカッションする,という内容.

それぞれの資料は後ほど Web にあがるとのことなので,ポイントだけ.

神田氏は既存のテレビを
「生放送だけの視聴率」
「同一チャンネル,時間別編成」
「視聴者が参加しづらい」
「意見がフィードバックまでに時間がかかる」
「視聴が『タダ』であるという意識」
という問題に分解し,Web 2.0で起きている
「Folksonomy」
「Rich User Experiences」
「User as contributor」
「Long tail」
「Participation」
「Radical Trust」
「Radical Decentralization」
というムーブメントをテレビに当てはめて未来のテレビを語っていた.

こうなってくると,もはや「メインストリーム」の定義自体が崩れてくる.実際にネットの世界では何百人というスタッフを抱える大手新聞社のサイトより個人の有名 Blog の方が page view を稼いでいる例も見られているらしい.

気になったのは,「リモコンはソリューション解決ツール」と話していたこと.つまり見ている番組がつまらなくてチャンネルを変えたい時に手にするもので,気に入っている番組を見ている時はリモコンは触りたくないということだ.

橋本氏は「テレビの見方」「テレビの見られ方」という2つの観点から「メタ」「ベタ」「ネタ」「オタ」という議論を展開させていく.

朝日新聞と読売新聞の記事をこっそり入れ変えても気づく人は少ないかもしれないが,毎日新聞に Blog のエントリーを入れたらみんな気づくだろうと.つまり毎日と読売を読み比べるよりも,新聞やテレビを見ながらBlog と2ちゃんねるを読むと,世の中がよくわかるメタな時代になっているというわけ.

テレビ番組が木の幹だったら,そこから枝が出て花が咲く (花はエンドユーザー,つまり視聴者の反応) わけで,そこにスポットが当たるようになるだろうと話していた.

この人はとてもセンスと頭が良いなぁという印象を受ける.


以下,全員によるディスカッションからいくつか.

今後は視聴率だけではなく,他の形の視聴者の反応が影響を及ぼすのでは? 例えば「Blog に書かれた率」とか「トラックバック率」とか? (神田)
いや,あくまでもマスなんです.視聴率の裏には広告主がいる.やっぱり TV 局にとっては視聴率が全て.その先にある GRP (どれだけ CM が見られたか) が流通の基準になってしまっている.結局 TV 局は保身でしかない.そこからどこまで変われるかがこれからのポイント.(江口)

その辺り,CM が無い NHK はどうですか? (神田)
しばらく前までは視聴率すら関係無く,純粋に作品性を重視していた.つまり制作サイドからすると NHK の人に気に入ってもらえるかどうかが,次にまた番組を作れるかどうかになる.ただ最近では結構視聴率を気にしているみたい.(山本)
うん,一番気にしてるよね.(江口)

橋本さんが表現するところの「幹」と「花」の歩みよりは? (神田)
対立する必要も無いと思っている.(橋本)

映像は毎秒30コマだけど,そこから1コマ抜いても人間の目には分かりはしない.実際映画は24コマだし.これって30分で1分浮くということでしょ.だったらその間に CM を入れられるなんて言った人がいるけど,実は番組だって入れられるかもしれない.デジタルってそういうことなんです.どんな形か分からないけど,数10時間を1時間で摂取することができる世の中になるかもしれない.(橋本)

近未来のテレビ視聴はどうなる? (神田)
それ程変わらないかもしれない.もっとずっと昔から「未来のテレビ論」はあった.人は見たいものが見たい.その気持ちがどこから発生しているかと言うとテレビに「あなたの見たいものはこれでしょ」と思い込ませる技術があったから.編成とはそういうものだ.(江口)

だからビデオ・オン・デマンドが成功するとは思えない.「何千タイトルあります」と言われて見たい気持ちが起こりますか? 人がなぜ DVD を借りるかといったら,帰り道に TSUTAYA があって電池でも買うついでに覗いたらおもしろそうなのがあったからとか,そういうことでは? テレビにはそんなパワーがあった.今後テレビ上,PC 画面上で人をそういう気持ちにさせられるかどうかがポイントですね.(江口)



...とまあこんなかんじ.長々と書いてしまった.細かい内容まで全て伝えようとするとあと何倍もかかりそうだが,雰囲気ぐらいは掴み取って頂けただろうか? 前述のように今日の資料は Web にアップされるようなので,興味のある方はそちらを参照されたい.

ちなみに今日のセッションで一番印象に残っているのは,神田氏がプレゼンの中で「最近ではこんなものまで検索できちゃうんですよ」と言って見せていた,「とくダネ」で小倉 智昭のズラがとれる映像.YouTube で "ozura" で検索すると一発です.

【2006/03/26 追記】
既に資料がアップデートされているようです.
ちなみに橋本さんの資料は こちら


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