2009年3月26日木曜日

あのーブルペンで見てました - 松坂 大輔 [memo]

WBC は本当に素晴らしかった.いくつもの感動をもらった.それらの場面は このへん に書いてあるのでここでは繰り返さないが,今日放送された報道ステーションで知ったちょっといい話をシェアしたいと思う.

10回裏,2アウト・あと1人,ベンチでは優勝が決まった瞬間に我先にグラウンドに飛び出そうと,選手が身を乗り出している.だがそこに,エース松坂の姿はなかった.

インタビューでそのことを聞かれた松坂は,あっさりこう言った.

あのーブルペンで見てました.
あのーブルペンの様子もちょっと気になったんで.


大会規定により,この試合投げられない松坂は,こんな時にブルペンにいた.待機するリリーフピッチャーの様子を気にかけていたのだ.

なんという大きな男だろう.一番の主役であるはずの彼が,それこそスタッフに任せておけばいいようなことを,歓喜の瞬間が近づく中,行っていたのだ.

高校3年生の松坂が,甲子園の準々決勝で延長17回を投げきり,そして決勝でノーヒットノーランを成し遂げた1998年の夏は,ちょうど私が大学を卒業してアメリカから日本に帰ってきた時だった.それだけにあの夏は,あの甲子園は,そして松坂というピッチャーは印象に残っている.

そしてそれだけに,私にとっていつまでたっても高校生の印象が残る松坂は,いつのまにかこんな大きな男になっていた.

強いチームに主役は要らない.全員が,自分ではなくチームの為に,今できることをやるべきなのだろう.そしてそれは,才能に恵まれ日本代表として選ばれたアスリートだけではなく,チームの中で働く全員に言えることなのかもしれない.


2009年3月23日月曜日

麻布亭薬膳カレー [gourmet]

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書きたいことはいくつかあるんだけど,なんとなくブログ書くモードじゃない今日この頃.

そう言えば同じようなことを言っていた友人に,

まーいいんじゃない? 宿題じゃないんだし.
そんな時はその日食べたものでも書けば?

と話したことを思い出した.

というわけで,ここ数日なぜか無性に薬膳カレーが食べたい衝動に駆られていたという話でも書いてみます.

訪れたのは白金にある 麻布亭 LINO という店.
40種類以上のスパイスを駆使し,炒める・煮こむ・寝かすという工程を繰り返し,10日間熟成させて仕上げるのだそうだ.

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まろやかさの中にスパイスが効いていて,とても濃厚だ.それでいてしつこくない.
普通,辛いカレーというのは最初から最後までただ辛いだけ.だが美味いカレーは,口に入れた瞬間は強烈にカレーの味がして,甘みと旨みが広がり,その後キレのある辛さが追いかけてくる.まさにそんなカレーだった.


春先はまったりと更新していきます.


2009年3月22日日曜日

I wish that for just one time... [reflection]

Yes, I wish that for just one time
You could stand inside my shoes
You'd know what a drag it is to see you

-- Positively 4th Street / Bob Dylan


2009年3月11日水曜日

私の中の The Beatles その2 - Help! [music]

HELP!
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Side A
1. Help! (Lennon-McCartney)
2. The Night Before (Lennon-McCartney)
3. You've Got to Hide Your Love Away (Lennon-McCartney)
4. I Need You (Harrison)
5. Another Girl (Lennon-McCartney)
6. You're Going to Lose That Girl (Lennon-McCartney)
7. Ticket to Ride (Lennon-McCartney)

Side B
1. Act Naturally (Russell, Morrison)
2. It's Only Love (Lennon-McCartney)
3. You Like Me Too Much (Harrison)
4. Tell Me What You See (Lennon-McCartney)
5. I've Just Seen a Face (Lennon-McCartney)
6. Yesterday (Lennon-McCartney)
7. Dizzy Miss Lizzy (Williams)



俺的ビートルズライナーノーツ,今回は1965年にリリースされた5枚目のアルバム,Help! です.

Lennon-McCartney クレジットの曲の中では,A-1,A-3,A-6,A-7,B-2 がジョンの曲,A-2,A-5,B-4,B-5,B-6 がポールの曲となっている.

アルバムタイトル曲の Help! は,ポップでキャッチーな曲調にして,思わず口ずさんでしまうような聴き慣れたビートルズの代表曲ということで,あまり曲の持つ真意まで語られることはない.

だがこれは,ジョンの心の叫びなのです.

デビュー前はリーゼントだったのに,コマーシャリズムに従ってマッシュルームカットに仕立てられ,アイドルとして人気を得ていた立場に対して,理想と現実のギャップにもがいたジョンが「助けてくれ」と吐露している.

音楽的にはこの曲は,まったく違う2つの曲を組み合わせて作られていることも記しておきたい."Help! I need somebody..." という冒頭の部分から,"When I was younger..." というところで,まったく違うメロディになるのだ.この手法は今では当たり前のようによく使われ,言われなければ気付かないところだが,実はビートルズがこの曲ではじめて用いたと言われている.


You've Got to Hide Your Love Away は,ジョンがボブ・ディランに強く影響を受けて作った曲だ.確かにこのアコースティックなムードと歌詞は完全にディランを意識しているし,サビの "Hey, you've got to..." のあたりは,既にモノマネの域である (笑).




Ticket to Ride は,なんといってもジョンとポールのハモりが素晴らしい.2人が美しくハモっている曲は幾多とあるが,もしかしたらこれが私の中のナンバー1かもしれない.中期以降「個としてのビートルズ」を確立していった彼等において,なんのわだかまりもなく純粋に2人で声を出していたのは,このアルバムぐらいまでではないだろうか.

いつでも叙情的に響くハーモニーである.




そしてビートルズの,いやポップミュージック史の代表曲と言って過言ではないポールの大傑作 Yesterday.その数なんと3000以上という,歴史上一番カバーされた曲…なんていう説明も陳腐なほど,ただ美しい.説明は要らないだろう.

この曲は (やはりクレジットは Lennon-McCartney とされつつも),ポールが1人でレコーディングした曲だ.ポールが1人で曲を書き,1人で弾き語る,個人的にはポールのソロと捉えている.

余談だが,RC サクセションのスローバラードという曲に「カーラジオからスローバラード」という歌詞があるが,実際にこの曲の元となった,清志郎のカーラジオから流れてきたスローバラードは Yesterday と言われている.RC には「イエスタディをうたって」という曲もあるし,きっとこの曲は清志郎の想い出の1曲なのだろう.


…さて,今回このエントリーを書くにあたって,このアルバムを聴き返しているが,やはり1曲目の Help! が心を鷲掴みにするのだ.

ポップでキャッチーなメロディに乗せて,そしてクリップの中では笑顔で歌いつつも,聴けば聴くほどジョンが泣き叫んでいるのだ.

Now my life has changed in so many ways,

今では僕の人生はすっかり変わってしまった

-- Help! / The Beatles


10代の頃,いやあるいは20代のはじめでもいい,その頃は誰しも「今ある世界が人生の全て」だと思っていたはずだ.だがその後,容赦なく過ぎていく時間と移り変わる人生に翻弄されたことはないだろうか.

Every now and then I feel so insecure,

時折,不安でたまらなくなるんだ

-- Help! / The Beatles


人は,歳を取るという最大の代償を払いながら成長していくものである.

ペシミストを気取るつもりはない.
成長の過程には,想像もしなかった素晴らしいことだって沢山ある.

結婚した時のこと,子供が生まれた時のこと.
それは,今までの人生が色褪せて見えてしまうほど,素晴らしい一場面に違いない.

だが一方で,歳を取るという行為は,時としてあまりに非情である.若い頃は気付きもしなかったこと,気付きたくもなかったこと,それを,まったく心の準備もないまま現実として目の前に突きつけられ,途方に暮れる経験を,あなただってしたことがあるだろう?

聴こえないだろうか?

ジョンの,私の,あなたの隣にいる人の,そしてあなた自身の,悲痛な心の叫びが.


Help me if you can, I'm feeling down,
And I do appreciate you being round,
Help me, get my feet back on the ground,

Won't you please, please help me,
Help me,
Help me, Oh

-- Help! / The Beatles



そして "Help!" という叫び声と共にはじまったこのアルバムは,全てがふっきれたようなロックンロールで幕を閉じる.その前の曲の Yesterday というスローバラードが,シングルとして聴けば音楽史上燦然と輝く名曲であるのに,アルバム全体を通して聴くとまるでこの最後のロックンロールの引き立て役であるかのように.




生きるということは,なんて辛いことなのだろう.
生きるということは,なんて素晴らしいことなのだろう.

いい事もある.
悪い事もある.

どうせ両方あるのなら,丸ごと受け入れさせて頂きましょう.
泣いても笑ってもやることなら,笑ってやらせて頂きましょう.


1曲目を聴いて泣きたくなり,そのまま色々な思いを馳せて次々と流れる曲の展開に身を任せ,最後の曲でフッと気持ちが楽になってまた前を見る…私にとってはそんなアルバムです.


Peace Pipe: 私の中の The Beatles