2008年2月11日月曜日

忌野清志郎完全復活祭 at 日本武道館 - それと,あの夏の夢に [reflection]

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今日は,なんだかとても懐しい気分に包まれて家を出た.喉頭癌を宣告され,声を失うからと手術を拒否した清志郎の,「完全復活祭」と題された2年ぶりの復帰ライブ.日本武道館で,私は清志郎の歌声を全身で浴びていた.前から聞こえてくる音の全てが体に入り込んでくるようだった.

ライブのレポートは他の誰かに任せよう.今書けることを書いておこう.


私には,忌野 清志郎という人間のことは,いくら語ってもきっと語り尽くせない.清志郎は私が好きなミュージシャンの1人かもしれないが,私にとって彼はミュージシャンなのかと問われれば,それだけではないと答えるだろう.

人生においてとても大切な部分を,彼の詩,そしてなにより彼の歌声から学んだ.
学校の教科書なんかより,クダらない教師の言葉なんかより,彼の歌声が教えてくれた.
こんな私にも,自分の中に大事にしたい,誇りに思いたい部分がある.そんな部分を,女とヤッたこともなかった中学生の頃から,30を越えた今まで,ずっと教えてくれているような気がする.

思い出せば,楽しい時も,辛い時も,笑っている時も,泣いている時も,いつだって彼の歌声は流れていた.


…かつて,とても大切なものを失ったことがあった.とても大切なものというより,大切だと思い込んでいたもの,それ以外には疑わなかったもの,というか.

それで,少しばかり落ち込んでいた時に話を聞いてくれた友人が,私にこう言った.

例えばイマワノキヨシローの音楽と,その失ったものだったら,どちらが大事? どちらかしか残らないとしたら,どちらを取る?


清志郎の音楽が無い人生なんて考えられない気がして,答えに詰まっていた.

じゃあ,キヨシローの音楽と自分の子供だったら?

と彼女.

「そりゃ子供だよ」と,それは即答だった.

そして彼女は,

ほら,大丈夫じゃん.
あなたには大切にするものがあるんだから,大丈夫だよ.

と言った.

…なんともずるい奴だと思った.
ただ,なんだか少しだけ楽になった気がしたのは覚えている.

その後の数日間,まるで拠り所のように,すがるように清志郎を聴いていた.
「なんであんた,そんな声で歌うんだよ」って思いながら,心をえぐるようなリアルな詩と,身を切るような歌声を聴いていた.

時には「川のほとりで自殺を考えた 俺はダメな奴だ もう死んでるんだ」と弱々しく,

時には「大したことない 大したことない 大したことない 僕は笑う」と切なく,

時には「大人だろ 勇気を出せよ きっと道に迷わずに 君の家に辿り着けるさ」と優しく,

時には「君はどこにも逃げられない 立ち向かうしかない」と力強く,

時には「勇気が ほら わいてくるよ 誇り高く生きよう 喜びにあふれ」と気高く,

時には「君は あぁ 空を飛んで 陽気な場所を見つけに 僕をおいてけばいい」と呟き,

時には「いい事ばかりはありゃしない 涙ぐんでもはじまらねぇ」と嘆き,

時には「ヘーイベイベー 今こそ君はどんぞこぉ」と嘲笑い,

時には「苦虫を噛み潰して お前を笑かすぜ あぁ笑い転げろ」と威張り,

時には「よく言うぜ イモ野郎 よく言うぜ あきれて物も言えない」と憤り,

時には「僕まっぴらだぁぁぁ もうまっぴらだぁぁぁ」と泣き叫び,

時には「覚えてるかい? 一度だけ君が泣いたこと この運命に甘いキスを送ろう」と清々しく,

時には「いい事が起こるように ただ願うだけさ もう一度高く JUMP するよ」と元気に,

時には「いつだって いつだって 昼も夜もわからず まぼろしに追われています」と虚ろに,

時には「心はまるで老いぼれさ 情けない 情けない」と絶望的に,

時には「無口になった僕は ふさわしく暮らしてる 言い忘れたことあるけれど」とまるで独り言のように,

そして時には「クサッてみたってタイクツするだけさぁ」と気楽に笑い飛ばす彼の歌を…

ただ息を吸って,息を吐いて,聴いていた.

起きていると余計なことを考えてしまうから思考を断つ為に少しでも早く眠りにつきたくて,でもまた朝起きれば余計なことを考えてしまうのが分かっていたからとにかく眠りたくなくて…だからただ息を吸って,息を吐いて,聴いていた.

ずっと眠っていられれば良かったんだけど,それじゃ死んでるってことだと思い,もちろん死ぬことなんて1ミリも考えちゃいなかったけど,何気なく娘に「パパ死んだらどーする?」と聞くと,娘は両手をめいっぱいに広げながら,

こんな,こんな,こんな,こんな,
おそらまでずーっといて

と言った.一生忘れないと思う.


今でも,あの時話を聞いてくれた友人はずるい奴だと思っている.
でも今日,ステージの上の清志郎を見て,その生の歌声を2年ぶりに浴びて,あの時の店の中の景色とか,あの時口にしていたものの味とか,なによりあの少し楽になった感覚が,鮮明に甦ってきた.


時間にしか,癒せないものがある.
音楽に,救われることがある.

妖怪みたいだ.気持ち悪い.

あの頃の自分に,「もう今は大丈夫だから」って伝えてやろうと思う.
ポンポンと肩を叩いて,「ほっといても立ち直るから,力抜けよ」って.

一体誰に感謝すればいいんだろう?
俺の人生に,清志郎の歌があって,心から幸せだと思う.


Oh, 何度でも夢を見せてやる
Oh, あの夏の日焼けしたままの夢

-- 忌野 清志郎

出ていけ!
俺の世界から

-- 忌野 清志郎

あの夏の,日焼けしたままの夢に.
とっくに完全復活だぜ.
No strings attached. It's all on me.
出ていけ,俺の世界から.


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