Monday, October 23, 2006

夢助 - 忌野 清志郎 [music]

ソウル界のカリスマ,Steve Cropper がプロデュースし,Nashville で録音された忌野 清志郎さんの通算45枚目となるニューアルバム,夢助.この Blog でも発売前に何度か取り上げたけど,レビューを書くのはじっくり聴き込んでからにしようと思ったので,このタイミングになってしまった.

まあ長い話を短くまとめると,Steve Cropper と清志郎さんに惚れ直しました,というお話です.特に Cropper は,ギタリストとしてだけではなく,プロデューサーとしても天才なんだな,と実感.

以下,長い話.


そこには,極上の音楽があった.

1992年に,同じく Steve Cropper をプロデューサーに迎え,Booker T. & the MG's を従えて Memphis で録音された,"Memphis" というアルバムがあった.もちろん「作品」としては素晴らしかったんだけど,それぞれがそのまま合わさって,なんか「清志郎さんが MG's のバックで歌ってる」というイメージが強く残った (というかそういうコンセプトだったんだろうけど).

それに対してこの「夢助」は,完全に1つの音楽として融合された,「Cropper 仕立ての清志郎節」なのだ.

Cropper のスタジオで,Cropper が自慢のミュージシャン (なんとその中には Jim Horn や "The Memphis Horns" の Wayne Jackson といった超大物までいる) を集めて作られたこのアルバム.

実際,Cropper は清志郎さんが持ち込んだデモテープから,かなり音をいじったと言われている.いや「いじった」という表現が的確でなければ,レコーディングに同行した山本 キヨシ氏の言葉をそのまま借りよう.

さすがに譜面もないし,スティーブの思い付きでどんどん変わっていくし,生きている音楽を目の辺りにしている感じです.
(こちら でも紹介したファンクラブ会報誌より)

実際,どれだけ原曲から変わったのかは分からないけど,どの曲も「このアレンジしか考えられない」と思えるぐらい完全にハマりきっている.

あるいは,以前フジテレビで放映された この番組 の CHABO の言葉を借りれば,

最初のデモテープはラフな感じで,荒々しかったのね.
あがってきたのはー,クロッパーさんがやっぱり,めちゃタイトでー
(「激しい雨」 を共作した CHABO が出来上がった曲を聴いて)

そう,とにかくこの曲に限らず,Cropper がタイトに仕上げてるんです.もうとにかく,これでもか,ってぐらい.


まず1曲目の,どこか寂しげなリフに強烈なメッセージを乗せた「誇り高く生きよう」から一気に心を奪われ,惹き込まれていく.


例えば「This Time」という曲.これは Steve Cropper がこのアルバムの為に作詞・作曲をして,清志郎さんがその詞を自ら和訳した曲だが,アルバムの中にとても自然に入り込んでいる.っていうか,「清志郎さんのオリジナル曲」と言われてもまったく気付かないかもしれない.


例えば「花びら」や「Night And Day」のイントロ.完全に Stax サウンド だし,特に「花びら」なんて,Steve Cropper の真骨頂とも言える展開だ.そしてそこに Otis Redding でもなく,Eddie Floyd でもなく,忌野 清志郎の歌声が微塵の違和感も無く滑り込んでくる.


例えば「涙のプリンセス」や「温故知新」のギターソロ.なんとも Cropper らしいフレーズではないだろうか.これこそ世界中のソウルマンが羨望の眼差しで見つめる Steve Cropper のギターだ.「痛快」の一言に尽きる.

こんなメロディを,他の誰が考えられよう?

こんなリズムを,他の誰が奏でられよう?

しかもこのありえない時間感覚…

世界中の時間が一瞬スローモーションに陥った錯覚さえ覚える.

以前「『優れたデザインは引き算である』という言葉は Cropperのギターにもあてはまる.『ギターを弾いていない時』こそ一番 Cropper が音楽を奏でている時」みたいに 書いたことがある けど,つまり私が言いたかったのは,まさにこのギターのことなんです.

スティーブさん,アンタって人は,ホント,なんてカッコいいんだぃ.


この,そうそうたるバックで完璧に歌いこなす清志郎さんも,改めてすごいなぁと思う.ホント歌うまいなぁ.歌詞もいいなぁ.

特に「雨の降る日」の絶妙な音程感.
少し余談になるけど,以前清志郎さんのライブを見に行った時に,モニタースピーカー (ライブで演奏者が音を聞く為にステージ前に設置するスピーカー) から音が出なくなるというトラブルがあった.長いライブ経験を通して,そんなトラブルは始めてではなかったのだろう.メンバーは慌てることもなく,ギターの三宅 伸治がすかさず清志郎さんの前に来て,カッティングする右手の動きを大きく動かし始めた.清志郎さんはバンドの音が聞こえない中,その手の動きを頼りにリズムを取り始めた.とっさのバンドの対応にも「プロ」を感じたけど,自分の歌声がまったく聞こえない中で音程を1つも外さず完璧に歌い続けていた清志郎さんを,口をあんぐり開けて見ていたのを覚えている.この曲の絶妙な音程感を聴いて,その時のライブの光景が一気に蘇えってきた.


ファンの心情からすると,この録音の時には既に喉頭癌を患っていたわけで,さらに「病床での最終作業で最後にタイトルカラーに選んだのは,病室から見える広い空の色」なんて話を聞くとたまらなくなるのは事実.でもそんな感情を抜きにして音楽だけを客観的に取りあげても,それこそ MG's や RC Succession まで含めて,Steve Cropper 作品の,あるいは忌野 清志郎作品の,"one of the very best" に入ると思う.


もしあなたが清志郎さんやリズム・アンド・ブルースをあまり聴いたことが無かったとして,このアルバムを手にする機会があったとしたら,1度だけ聴いて「ふーん,こんなかんじなのね.キヨシローって独特の声してるよねー」で終わってほしくない.

もしできれば,10回は聴いて頂きたいアルバムだ.
聴く度に新しい音が聞こえてきて,新しい発見がある.
そして少しずつ体の中に溶け込んで行くと思う.

3回聴けばもう Nashville の空気を感じるかもしれない.そして詞の内容にハッとして,清志郎さんの声が「ちょっと変わった特徴のある声」なんてことだけでは無く,強い意思持った深みのある声だと感じるだろう.

5回目には,決して派手ではない,しかしどこまでも誠実に響く Steve Cropper のギターフレーズが頭から離れなくなっているはずだ.

8回目には,例えば「残り香」のようなゆったりと流れていたと思っていたリズム・アンド・ブルースが,ボーカルの後ろに聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで刻まれている Cropper のカッティングによって,実はおそろしいほどタイトに,そして巧みにコントロールされていたことに気付くかもしれない.それと同時に決してはばからない,しかし絶妙のタイミングで入ってくるピアノやホーンセクションの心地良い響きに背筋をくすぐられているだろう.

10回目には,忌野 清志郎と Steve Cropper の虜になっているかも.

…なーんてねっ.

ま,基本的に音楽は自由なものだし,私は音楽が本当に大好きだから,音楽を押しつけるのも押しつけられるのも大嫌い.というわけで,このエントリーは私の自己満足程度に読んで頂いて,もし興味があれば give it a try! ってことで.


それにしても,私がヘタな言葉でどれだけ Steve Cropper のことを語っても,この人のこの一言にはかなわないなーと思うのです.

まぁ,(カッティングの真似をしながら) "ザーカザッ" てかんじですかね.
ひとことで言うと.うん.
-- 忌野 清志郎 (インタビューで「クロッパーの魅力は?」と聞かれて)




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