2006年5月1日月曜日

アンビエント・ファインダビリティ出版記念イベント [memo]

前エントリーで書いた早稲田大学の「インターネット検索の未来」から連日のイベント参加になるが,木曜は「アンビエント・ファインダビリティ」という書籍の 出版記念イベント に顔を出してきた.

最近ではイベントの内容そのものよりも,参加者に興味を持って顔を出すことが多い私であるが,今日のお目当ては前日に引き続き 情報考学 Passion For The Future の橋本 大也氏 (この日は司会という立場,それにしても2日連続で彼の話を聞くとは思わなかった),そして このエントリー で少し紹介したユーザーインターフェースの権威,増井 俊之氏だ.


アンビエント・ファインダビリティって?

まず少し「アンビエント・ファインダビリティ」という本について.
元々「情報アーキテクチャのパイオニア」と呼ばれていた Peter Morville が去年出した本で,今回はそれの翻訳版の出版記念イベント.訳者は「インフォメーションアーキテクト」という肩書を持つ浅野 紀予氏で,彼女は翻訳家でもなんでもなく,たまたま原本について Blog で言及していたらオライリー社から翻訳を依頼されたとのことだ.

書籍の定義では,
ambient
a. 周囲を取り巻く,取り囲む
b. 完全に包囲している
findability
a. 位置特定可能な,あるいは進路決定可能な性質
b. 特定の対象物の発見しやすさ,あるいは位置の識別しやすさの度合い
c. システムまたは環境が対応している進路決定と検索のしやすさの度合い
とのこと (第1章より).

つまり,"Ambient Findability" とは「必要な情報に,いつでもどこでもアクセスできる」概念と言っていいだろう.本書の中で Morville は,

われわれはまだその世界まで到達してはいないが,間違いなくその方向に向かって進んでいる.情報はまさに文字通り空気中に存在しており,そのことがわれわれの考え方を実際に変化させてもいる.そしてもっとも重要なのは,ファインダビリティが個人に自由をもたらすということだ.大衆のメディアとしてのウェブがマスメディアに挑むにつれて,われわれは自分で情報源を選択し,必要なニュースを選り分けられる,前人未踏の能力を享受することになるだろう.

と述べている (Pg 8).

このイベントの説明に

ウェブ,検索,そしてコミュニケーションの近未来カンファレンス

「情報を見つける」と「情報が見つかる」とはどういうことか?
このイベントでは、この新しい視点から、Web2.0の行方を考えてみようと思います。

とあるが,実はこれ,この前日の早稲田大学のシンポジウムの内容に非常にオーバーラップする.
Peace Pipe: 早稲田大学シンポジウム インターネット検索の未来 [memo]

実際に橋本氏も「今日の為にこの本を読みながら昨日の資料を作ったので,かなり内容が影響された」と話していたが,そもそも「無尽蔵に溢れる情報にどのようにアクセスするか」,また「それが可能になることがどのような変化をもたらすのか」という論点で見れば,この日と前日で2日間に渡る一連のセッションに参加したような錯覚さえ抱かせる.

冒頭で橋本氏が「今日のイベントはあまりに漠然としている Web 2.0 を考える1つの切り口になると思う」と話していたので,なんとなくそのつもりで聞いていた.以下,内容を簡単にレポートしてみよう.


田村 英男氏 オライリー社 編集者 講演

編集者である田村氏による書籍の紹介.単純に本の紹介なので内容は割愛するが,彼が「本日のイベントのことを皆さんが Blog に書くのを楽しみにしている」と語っていたので存分に書かせて頂こう.この Blog も読んで頂けているだろうか.

ということでせっかくだから1つ言っておくと,彼のスライドの中で,"Findability" のスペルが "Findabirity" になっていた.私も誤字脱字は多いので人のことは言えないが,本の出版イベントで出版者がその本のタイトルを typo するというのは致命的だと思う次第.


浅野 紀予氏 翻訳者 講演

訳者の浅野氏による講演.
「Long Tail」
「Search」
「Intertwingled」
「Authority」
「Communication」
という5つのキーワードに沿って論点を展開して行くが,既に彼女の Blog で発表資料が公開されており,特に PDF 版は彼女の台本付きなのでこちらを参照された方が正確だろう.
IA Spectrum: アンビエント・ファインダビリティ出版記念イベントの資料をアップします

彼女の「人間はある意味メディアだと思う」という印象的な発言と,上の5つのキーワードのうち Morville が 「Authority」が一番重要なキーワードであると話していたエピソードだけつけ加えておこう (後の増井氏の発言とリンクする).


橋本 大也氏 プレゼン

彼のプレゼンは,「この後のパネルディスカッションへのネタ振り」という位置付けで,The Best of WEB 2.0 に紹介されている「Web 2.0 的サービス」の中から今日の題材に特に関連があると彼が考えるサービスを10個紹介していた.彼が選んだのは次の通り.

clipmarks
Web の切り抜きサービス

riya
顔認識技術と写真検索

Podbop
ローカルコンサート検索

diigo
"Social Annotation" for knowledge users

Zillow.com
住所を入れると家の評価価格が出る

TitleZ
本の経歴を見ることができる

iKarma
第三者評価サービス

fon
WiFi Internet Access Everywhere

PodDater
Podcasting 出会い系サイト

CoComment
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実際に「ネタ振り」になっていたかどうかは微妙だが,1つ「へーなるほどねっ」と思ったのはこの後の質疑応答の中で「情報を見つけるという議論だったが,逆に自分を見つけてもらうにはどうすればいい?」みたいな質問があった時に増井氏が「先ほど橋本さんが紹介したサイト,みんな変な名前ですよねぇ.あれ,全部 Google 対策なんでしょうね.」と言っていた点.


増井 俊之氏 プレゼン

「Ambient とは,まあ Ubiquitous と同じような概念なのかな.本は Findability 中心の議論になっていて,例えば "Ubiquitous Application" といった話では無い点に好感が持てる.」と前置きした上で,alpha geek なオーラを身にまといつつ (褒め言葉) なんとも独特な口調で話し始める.

彼の論点は一言で言うと「タギングの有効性」と言えようか.

まず,「検索は人間の行動の中心」であると主張し,「2人以上集まればコミュニケーションが生まれても,1人の時は人間は常に検索している」と言う.例えば「メールを送信する」という行為においては「アドレス帳から友人の名前を探す」とか「送信ボタンを探す」など,「休日の過ごし方」においては「レストランを探す」とか「良い映画を探す」など.さらに計算機においても「メニュー,アイコン,フォルダ,スクロールバー」などは全て検索を助長するものであり,意識している・していないに関わらず我々は常に検索を行っている,と.

そして,自身の Blog でも述べている ような「Google に見つけられないもの」の例をいくつか挙げ,例えば「下北沢の宴会で会った人」を Google は見つけてくれないが,デジカメで撮ったその人の写真の日付けから PIM のその日のスケジュールやその日に書いたドキュメントを調べれば最終的に誰だか辿りつける場合があるとする.

凄かったのは,これを自分の PC 上で実装し,実際にデモを見せながら話していたことだ.索引付けられた2万枚の写真やブックマークの中から,キーワード・日付・文字列・類似ファイルなどにより「近傍関係」にあるデータを次々と拾い上げていくのは,なんとも圧巻だった (2万枚の写真の索引作りは手作業で地道に行ったということだったが…).

印象に残っているのは,彼がポツリと言った

索引をつけて嬉しいものというのは,検索して嬉しいものですよね?

検索して嬉しいものというのは...
…あ,これ全部ですよね?

という言葉.

最後に「情報の権威」という話で,

情報の権威 = はてブの登録数
情報の信頼性 = はてブの登録数

と冗談混じりに話していたが,いずれにしても情報の権威付けや信頼性が学会や既存メディアから大衆に移ってきているのは間違いないだろう.


…と,イベントのレポートはこれぐらいにしておこう.川井氏の話やパネルディスカッションの内容は,時間が無くあまりに駆け足で,本質的な議論よりも「みんな自分のことを話していた」印象があるので割愛させて頂く (余談になるが,いくつかイベントに参加している中で内容が素晴らしいものはいくつもあるが,きちんと時間管理されてオーガナイズされていたものというのは非常に数少ない気がする).

当日の模様はイベントにも少しだけ飛び入り参加した たつをさんの Blog で見ることができる.また,CNET Japan Blog の 渡辺さんの記事 でも他の Blog へのリンクも含めてレポートされている.

本イベント,というか「Ambient Findability」についての私自身の所感は,次のエントリーに譲ることにする.
Peace Pipe: Fragile Findability の美学 [memo]




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