Saturday, March 4, 2006

ソニーは「あちら側」へ渡れるか? [ce]

IT Pro に掲載された梅田 望夫さんの Google についてのインタビュー記事より.
My Life Between Silicon Valley and Japan - 「ウェブ進化論」の梅田望夫氏が語る“Googleという隕石”(前半)
My Life Between Silicon Valley and Japan - 「ウェブ進化論」の梅田望夫氏が語る“Googleという隕石”(後半)

私はこの Blog で良く梅田さんや Google のことを書くので「またか」と思われそうだが,今回私が注目したのはこの部分である.

−− こちら側にいる電機産業は、コスト競争の渦、つまり梅田さんの表現を借りれば「チープ革命」に巻き込まれます。そこからの脱皮を図ろうとしたソニーは2000年ころ、「Dream Kids」という標語を掲げ、あちら側に渡ろうと試みましたが。


果たして本当にそうだろうか? 少なくとも私が知る限り,ソニーという企業が出井氏の掲げた「Digital Dream Kids」という掛け声のもと,たった1度でも「あちら側」に渡ろうとしたことは無い (ちなみに「ソニーは2000年ころ…」とあるがこれは1996年初頭に掲げられた言葉で,2000年はむしろ Digital Dream Kids 終焉の頃だ).戦後産声を上げたこの企業はその後家電の世界で一大イノベーションを起こし,PC やゲーム,ロボットの世界でもトレンドを作り出し,さらには映画や音楽といったコンテンツまで所有するようになったが,常に「こちら側」にしか目を向けていなかったのだ.

ソニーが,その威光に陰りが見えると言われてから久しい.
どんな企業でもある程度の規模になると,いわゆる「大企業病」というものに直面する.やはり動きが鈍くなってくるし,マネージャなのか政治家なのか分からない輩も出てくる.そんな中,絶対的に不可欠なのは経営陣によるトップダウンのアプローチである.出井氏は確かに聞き覚えの良いスローガンは提唱した.コンサル会社の社外取締役 なら良いかもしれないが,時代を切り拓いて行くべきモノ作り企業のトップとしては,あまりに抽象的で具体性に欠けていたように思う.結局のところ彼は,井深 大でも Steve Jobs でもなかったということだ.これが久夛良木 建であれば無理矢理にでも会社を1つの方向に向かせたはずである.

インタビューの中で,私は梅田さんの以下の言葉に深い共感を覚えた.

ただApple社も、あちら側に渡れた会社ではありません。あちら側のサービスを示しながら、こちら側のハードウエア事業で儲けている会社です。

つまり、Googleのことです。検索窓しか見えないので、なかなか理解しにくいのですが、これはモノづくりです。


次にやってくる時代の「モノ作り」とは何だろうか?
果たしてソニーは「あちら側」へ渡れるだろうか?

メディアは相変わらず余計なお世話とも言える勝手な分析をしたがるし,
Sony's software future: CNET News.com
実際のソニーからは「あちら側」に目が向き出したのか,単に迷走しているだけなのか微妙な製品が発表されたりしている.
ITmedia News:「SonicStage」再生履歴をSNSで共有 ソニー

インターネットの世界が体験している変革をそのまま家電になぞらえることが得策かどうかは別として,いずれにしてもネットワーク路線への大幅なパラダイムシフトが迫られていることは確かなはずだ.

また梅田さんは同じインタビューの中で,日本企業に対して辛辣な言葉を残している.

一部を除けば、日本企業は精神が老いています。

今の日本企業からは全く新しいフロンティアに挑戦する覇気が感じられません。

確かにその通りかもしれない.だが現場レベルで「モノ作り」に誇りを持っている日本企業のエンジニア心情としては,単純に頭にくる.子供じみているが,理屈ではないのだ.


真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由豁達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」

これは1946年,終戦間もない貧しい日本で井深 大がソニー創業時に起草した設立趣意書の第一条である.私は1人のソニーファンとして,数々の歴史を作り出しこの企業に今でも根付く「モノ作り」の DNA を今一度信じてみたい.

今ネット世界を中心に我々が直面しようとしている大変革時代は,必ず家電の世界にもやってくる.今後は「家電メーカー」「PCメーカー」「ソフトウェア企業」なんていう括りは意味を持たなくなってくるだろう.Cisco は正式に家電の参入を発表したし,10年後 (いや,もしかしたら3 〜 5年後) のソニーの真のライバルは松下や Sharp よりも,Google, Microsoft, Yahoo, Amazon, au, Docomo といった企業になっているかもしれない.様々な企業が参入し混沌とする家電2.0時代に日本の家電メーカーが主役になるとすれば,それはやっぱりソニーであるべきだと思っている.ネットワークやコンテンツといったインフラを持っていて他の家電メーカーよりもアクションを起こしやすいからなんて理由ではなく,単にこの DNA の復活を見てみたいからだ.

今こそソニーは大企業病の体制を立て直し,目先のビジネスだけではなく次にやってくる時代に目を向けるべきだ.そう,純粋に「モノ作り」に求心しているエンジニアが愛想をつかし,Google にでも転職して逆に「あちら側」から家電業界に対してアプローチを計ろう,なんて考える前に.


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